マッチングアプリで知り合った男性のことなのだが、最初からどこか感じ悪いな、と思っていた。でもまさか、あんな形で再会することになるとは思っていなかった。
「年収と学歴、聞いてもいいですか?」
マッチングアプリに「いいね」がついたのは、3月の終わりごろ。プロフィールを見ると、30代後半・大手メーカー勤務・趣味はゴルフと読書、とあった。
写真はきっちりスーツ姿。悪くない、と思ってメッセージをやり取りし始めた。
ところが、5通目くらいから違和感があった。
「○○さんって、どちらの大学ですか?」
挨拶もそこそこに程度なのに。正直に答えると、「あー、そうなんですね」とだけ返ってきた。その間(ま)が、なんとも言えなかった。
その後も「年収ってどれくらいですか」「ご実家は?」と、まるで書類審査のような質問が続いた。私の仕事——デザイン分野の専門職——についても、「そういう仕事もあるよね(笑)」と一言。
笑うところじゃないでしょ、と思いながらも、まだ会ってもいないし、と自分を落ち着かせた。
「僕には合わないかも」——食事の席で値踏みされた
しれでも彼と食事の約束をとりつけ、都内のイタリアンで会った。
見た目は悪くない。話し方も落ち着いている。でも、やはりというか——会話の端々に、ランク付けの目線が透けて見えた。
「うちの会社のメンバーって、やっぱりいい大学出身がそろってるんだよね」「フリーランスっぽい仕事って、安定しないでしょ」「結婚相手にはある程度のスペックを求めてて」
スペック。その言葉が出たとき、私はグラスをそっと置いた。
食事が終わるころには、「正直、僕には合わないかもしれない」とまで言われた。こちらから願い下げです、と喉まで出かかったが、ぐっと飲み込んだ。
——不思議と、腹は立っていなかった。どこか冷めた目で彼を見ている自分がいた。
3週間後——に審査委員として呼ばれた
それから3週間後。
私は業界団体から、あるコンペの審査委員を依頼されていた。デザイン・クリエイティブ分野の若手向けコンペで、審査委員は5名。私はそのうちの一人として、コンペの会場に足を運んだ。
受付を済ませ、審査委員用の席に案内される。スタッフが資料を配り、進行の説明が始まる。
そのとき——壇上に上がってきた司会進行役の男性と、目が合った。
ーーあ!
彼だった。
彼もこちらに気づいた。一瞬、表情が止まった。止まったまま、固まった。
会場はざわついてもいないのに、私にはこの瞬間だけ音が消えたように感じた。
「続きまして……」——マイクを持つ彼の声が上ずった
進行は続いた。
彼は仕切り直してマイクを持ち、審査委員の紹介を始めた。一人ひとり、名前と肩書きが読み上げられていく。
「……続きまして、デザイン審査を担当していただきます先生。業界団体の理事もお務めで……」
私の名前が読まれたとき、彼の声がほんの少し、上ずった。
——気のせいじゃない。周りの審査委員が、ちらっと彼を見たくらいだ。
審査は粛々と進んだ。私は仕事として、丁寧に、真剣に各作品を評価した。彼はその間もずっと進行役として壇上にいた。でも、私と一度も目を合わせようとしなかった。
「もう一度だけ、会えませんか」——返信する気にはなれなかった
審査終了後、スマホを確認すると、マッチングアプリにメッセージが届いていた。
「今日は驚きました。ちゃんとお伝えできなかったことがあって……もし可能なら、もう一度会えませんか?」
謝罪の言葉もあった。「先日は失礼なことを言ってしまいました」と。
私はしばらくそのメッセージを見ていた。
怒りは、もうなかった。ただ——返信したいという気持ちが、どこにも見当たらなかった。
人を「スペック」で測ろうとする人は、自分が格下だと思っていた相手が格上だとわかった途端、態度を変える。それだけのことだ。
私が欲しいのは、そういう謝罪じゃない。
アプリのトーク画面を閉じて、スマホをバッグにしまった。
婚活は、続けている
あの一件以来、婚活のスタンスが少し変わった。
相手のスペックより、自分をどう見てくれるか。最初の数通のやり取りで、その人がどんな「目線」を持っているか——そこをちゃんと見るようにした。
彼からのメッセージには、結局返信しなかった。
そして、マッチングアプリは消した。それだけのことだ。
さいごに
値踏みする側は、いつか自分も値踏みされる側になる——そんなことを感じさせてくれる出来事でした。婚活で「見られ方」より「見る目」を大切にしたいと思っている人、きっと多いはず。あなたも、似たような経験がありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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