義両親を招いての食事会は、最初からどこか嫌な予感がしていた。
「ご馳走します」と声をかけたのは私なのに、気づけばその言葉がとんでもない方向に転がっていった。
「せっかくだから松コースで♡」遠慮ゼロの注文が始まった
その日は夫の両親の結婚記念日。
私が「何かお祝いがしたい」と提案し、駅近くの老舗割烹を予約した。
コースは梅・竹・松の三種類。私は竹コースを想定していたけれど、メニューを開いた義母がにっこり笑って言った。
「せっかくだから松コースにしようかしら♡ 記念日だもんね」
松コースは一人前1万8千円。竹の倍近い値段だ。
「もちろんです、どうぞ」と答えながら、内心では少し動揺した。
でも、それはまだ序の口だった。
「地酒も全種類お願いします!」——そこから歯止めが利かなくなった
コースが始まると、義父がお品書きの裏に書かれた地酒のリストに目を輝かせた。
「この酒、地元の蔵元のやつだ。全種類飲み比べてみたいな。ね、いいだろ?」
仲居さんが「五種類ございます」と告げると、義父は即座に「全部!」と注文した。
飲み比べセットは1セット6千円。義父だけで2セット頼んだ。
義母も負けじと「追加で天ぷらの盛り合わせもお願い」「デザートを二種類に変更して」と続ける。
私のおごりだとわかっている状況で、ふたりは一度も「いいの?」と確認しなかった。
——これは、私の財布で起きていることだ。
夫はずっと黙っていた。止める素振りもなく、ただ料理を口に運んでいた。
私は心の中で金額を足し算しながら、笑顔を保つことだけに集中していた。
伝票を見た夫の顔が、みるみる青ざめていった
食事が終わり、仲居さんが小さなお盆に伝票を載せて持ってきた。
夫が先に手を伸ばし、そっと開いた。
一瞬、時が止まったかのような沈黙。
「……これ、4人で?」
夫が私に耳打ちしてきた金額は、4人で約9万2千円。
私は「うん」とだけ答えてカードを出した。
義母が「あら、いくらだったの?」と覗き込んできた。
金額を見た瞬間、義母の顔から笑顔が消えた。
でも次に出てきた言葉が、さらに私を驚かせた。
「……まあ、記念日だからこれくらいは仕方ないわよね」
——仕方ない?あなたたちが注文したのでは…?
夫が小さく、でもはっきりと義母に言った。
「お母さん、今日は全部、俺の奥さんが払ってくれてるんだよ。自分たちで好きなだけ頼んでおいて『仕方ない』はないんじゃないかな」
静かな一言だったけれど、テーブルの空気がすうっと冷えた。
「こんなに高いと思わなくて…」言い訳が見苦しすぎた
帰りの車の中で、義母が言い訳を始めた。
「だって、ご馳走してくれるって言うから。松コースがいいかなって思っただけで」
「お酒は義父さんが頼んだんだし、私のせいじゃないわよ」
義父は黙ってシートに深く沈んでいた。
夫はハンドルを握ったまま、静かに言った。
「ふたりとも、今日いくら使ったか把握してた? 9万円超えてるよ。奥さんが一人で払ってくれた金額だよ」
返ってきたのは「まあ…でも…」という歯切れの悪い言葉だけ。
その夜、夫は私に言った。
「正直、引いた。あのふたりがあんな人たちだとは思ってなかった。次から外食に誘うのはやめる」
それは、私が何度も心の中でつぶやいてきた言葉だった。
夫が「もう誘わない」と宣言した日から変わったこと
それ以来、義両親を誘っての外食はぱたりなくなった。
義母が「またどこか行きましょうよ」と誘ってきたこともあったが、夫が「当分は家で済ませようと思ってる」と穏やかに断った。
義両親が好き放題に注文した夜から、夫の中で何かが変わったのだと思う。
私が「嫁だから」と我慢してきたことを、夫はあの伝票と自分の両親の言い訳で、初めて身をもって実感することがしたのかもしれない。
あの9万円超えは、正直痛かった。
でも、夫が初めて私の側に立ってくれた夜でもあった。
さいごに
「ご馳走する」という言葉にここまで甘えられるとは——読んでいてため息が出た方も多いのではないでしょうか。でも、夫がちゃんと妻の側に立ってくれた結末は、少しだけほっとします。義実家との外食、あなたにも似たような経験はありますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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