婚活アプリで知り合って半年。彼のことを、誠実で誠意のある人だと信じて疑わなかった。
——それが崩れ始めたのは、大喧嘩でも劇的な発覚でもなく、ある夜の何気ない会話だった。
「親に紹介したい」が口癖だった彼
マッチングアプリで彼と出会ったのは、私が32歳の秋だった。
プロフィールには「結婚前提で探しています」とあり、メッセージのやりとりも丁寧で、最初のデートでは家族の話を楽しそうにしてくれた。
「妹が来月結婚するんです」「実家は埼玉の郊外で、庭が広くて」
——そういう具体的な話をする人は、嘘をついていない、と思っていた。
付き合い始めてからも、彼は折に触れて「いつか親に紹介したいな」と言った。その言葉が好きだった。先を見てくれているんだ、と。
小さなズレが、ひとつひとつ積み重なっていった
違和感が生まれたのは、付き合って4か月ほど経ったころだった。
以前「妹は来月結婚する」と言っていたのに、ある日「妹はまだ結婚してないんだよね」と言ったのだ。
——あれ? 4か月前の「来月」なら、とっくに式は終わっているはず。
「妹さん、式は終わった?」と聞くと、「ああ、延期になってさ」とすんなり返ってきた。それ自体はありえる話だ。でも、どこかが引っかかった。
その後も、ちょっとしたズレが続いた。
「実家に帰ったよ」と言った週末に、「ずっと家にいた」とも言っていた。「父が趣味でゴルフを始めた」という話が、2か月後には「父はゴルフが苦手で」に変わっていた。
ひとつひとつは些細なこと。でも私は、少しずつメモを取り始めていた。
「この人は、自分の家の話をしているのでは」
メモが10個を超えたとき、私はひとつの仮説を立てた。
——この人は「実家」の話をしているのではなく、「自分の家」の話をしているのではないか。
家族の話をするとき、会話の中で固有名詞がほとんど出てこない。
そして、週末に会えない理由はいつも「仕事」か「実家の用事」だった。
感情に任せて問い詰めるのは得策じゃない、と思った。代わりに、さりげなく確認できる質問をひとつだけ決めた。
ある夜、食事をしながら私は言った。「そういえば、妹さんの旦那さんってどんな人?」
一瞬、彼の目が止まった。ほんの0.5秒ほど。「え、ああ——まだあんまり会ってないから」と返ってきたけれど、その間が、答えだった。
事実を10個、静かに並べた夜
翌日、私は彼に短いメッセージを送った。「確認したいことがある。会って話せる?」
当日の夜、向かい合って座った彼に、私はメモしてきた矛盾点を、感情を抑えて淡々と並べた。
怒鳴らなかった。泣かなかった。
ただ、「ここが食い違っている」「ここも変だった」と、事実だけを静かに積み上げた。
彼は最初「記憶違いじゃない?」と言った。でも5個、6個と続くうちに、言葉が詰まっていった。
最終的に彼が認めたのは、「実は結婚していて、今は別居中」ということだった。「離婚協議中だから、ほぼ独身みたいなもので」と言いかけたところで、私は静かに遮った。
「それはあなたが判断することじゃないです。私が判断することですよね」
「もう連絡しないでください」——涙は出なかった
その言葉を置いて、私は席を立った。
泣くかと思っていたけれど、不思議と涙は出なかった。怒りよりも、半年間の会話のひとつひとつが「嘘のための作り話」だったのだと気づく虚しさの方が、ずっと重くのしかかっていた。
彼はしばらく黙っていた。言い返す言葉も、引き止める言葉も、もう持っていなかった。
その夜、アプリを削除した。
婚活自体をやめようかとも思った。でも、翌朝目が覚めたとき、「私は騙されたけれど、人を見る目を鍛えることはできる」と思い直した。
今は、別のアプリを使いながら、話の整合性に自然と耳を澄ませるようになった。怖くなったわけじゃない。ただ、「誠実さは言葉じゃなく、細部に宿る」と知っただけ。
感情的に問い詰めなくて、よかったと今でも思っている。静かに事実を並べたことで、言い逃れをさせずに済んだし、自分の中でも「ちゃんと向き合えた」という感覚が残った。
さいごに
婚活でも日常でも、大切な人を見極めるヒントは、派手な嘘より小さなズレの中にあるのかもしれませんね。あなたの「なんか変かも」という直感は、きっと間違っていない。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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