雨粒が窓に当たるたび、家の前の道が茶色く波打った。テレビは警報を繰り返し、スマホには避難情報。そんな夜に限って、夫は会社の飲み会で出ていた。
「迎えに来い」とメッセージが来たのは、日付が変わる直前。嫌な予感が当たった。
夫「今すぐ迎えに来い」台風の夜
夫は最寄りの大きな駅にいると言う。「雨でタクシーがつかまらない。車で来い」。
私は免許はあるが、家の前の道は冠水しやすい。ニュースのテロップには近所の交差点の通行止め。無理に出れば、私も夫も危ないし、ほかの人を巻きこむかもしれない。
私はタクシーアプリを開き、夫のいる駅を地図で指定。すぐに一台が確保できた。
「配車したよ。現地払いでOK。予約画面、これね」
配車コードと到着予定時刻を夫に送った。
「指示に従え」が止まらない
返ってきたのは感謝ではなかった。
「は? 車で来いって」「俺の指示が聞けないのか」「お前は妻失格」
私は危険だから車は出さないこと、タクシーが駅前に向かっていることを繰り返し伝えた。代わりの手段は用意した。それでも同じ文句が続く。
「お前が動け」
この押しつけがましい言い方は初めてではない。家でも、逆らうと「空気読め」の一言でねじ伏せられた。けれど今夜は命の話だ。私は短く返す。
「危ないから運転はしない。配車は済んでる。駅前で待ってて」
タクシー到着の通知が来た。私はそれもスクショで送った。
「ふざけてるのか」の一言
数分後、夫から「ふざけてるのか」。
その間にタクシーは数分待機して去り、アプリはキャンセル扱いになった。運転手さんには申し訳なかったけれど、私にはもう一つやることがあった。夫からの罵倒の連投と、私の返信、配車の到着とキャンセルの通知——同じ夜の出来事として、画面の履歴を保存した。
電話の着信も続いたが、出ても話が進まないのは経験済み。私は着信には応じず、母にだけ「状況がこうだから今夜は動かない。夜明けを待って実家に行く」と連絡した。
夜明け前、雨脚が弱まった。身分証、通帳、印鑑、保険証、仕事の書類をバッグに入れ、家の鍵を持って実家へ向かった。
弁護士「これはDVです」
その日の午後、母が教えてくれた無料相談で弁護士に会い、委任契約を結んだ。スマホの履歴を見せると、弁護士は言った。
「配偶者からの暴言や、危険な行為の強要はDVの一種です。別居を始めて構いません。以後の連絡は私宛にしてください」
弁護士名で夫へ内容証明を出し、連絡窓口を弁護士に限定してもらった。私のスマホの通知は鳴らなくなった。
夫の言い訳と、こちらの出すもの
数日後、弁護士から「ご主人は『酔っていた』『大げさだ』と言っています」と伝えられた。けれどこちらには、あの夜の連投と「ふざけてるのか」の一言、タクシー到着の通知、私が危険運転を断り代替手段を手配した事実が並ぶ。
私は離婚を申し立てた。婚姻を続ける意思はないこと、別居を継続すること、共通の貯蓄は折半で整理したいこと。子どもはいないから、生活はそれぞれで立て直せる。
夫は最初「戻ってこい」、次に「一回話そう」と言い換えた。話し合いの席には弁護士が同席。そこで私は、当夜の履歴と、過去にも同様の命令口調があったことを示すメッセージ数件(既に残っていたもの)を出した。
「覚えていない」「酔っ払っていて記憶が無い」——そう言い張っても、履歴は残っている。危険を承知で妻に運転させようとし、提案した安全な代替案を踏みにじった言葉が、はっきり記録されている。
結局、夫は離婚に応じた。共通の貯蓄は半分ずつに分け、家の片づけは後日、弁護士立ち会いで進める取り決めになった。
その後
実家での生活は静かだ。母と夕飯を食べながら天気予報を見て、「今日は早めに帰ろうね」と言い合う。誰かに命令されて危険を選ぶことは、もうない。
車は当分、遠出に使わない。運転するかどうかは私が決める。当たり前のことを、やっと取り戻した。
さいごに
危険な夜に「迎えに来い」と命じるのは、思いやりではなく支配でした。読んでいて胸がざわついた方もいるかもしれません。自分や家族を守るために、無理な要求にノーと言うのは悪いことではありませんよね。あなたなら、あの夜どう動きますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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