PTA役員になって2年目、私はずっとある違和感を飲み込んできた。
会議のたびに飛び出す「去年と同じでいいでしょ」というひと言が、なんとなく胸に引っかかって離れなかった。
「例年通り」が会議を5分で終わらせる
役員会が始まると、いつも仕切るのは大野さんだった。
彼女は40代で元学校事務員、段取りは確かで、書類の扱いも慣れている。
でも話し合いの場に出てくる議題は、たいてい「去年の記録」と一緒に提出されて、最後は「前例に倣いましょう」で着地する。
「バザーの品数、今年はどうしましょうか」
「去年と同じ30品でいいでしょ。去年と一緒なら間違いないし♪」
異論を唱えそうな空気が出ると、大野さんの声のトーンが少し低くなる。
それを感じ取った誰かが小さくうなずき、会議は5分で終わる——そのパターンが毎回繰り返されていた。
私だけじゃなかった?ふと周りを見回すと…
去年の私なら、きっとそのまま流していた。
でも今年、隣の席に座っていた今年入ったばかりのお母さんが、会議の後こっそり「大野さんって、いつもああいう感じなんですか?」と聞いてきた。
——あ、気になってるの、私だけじゃなかったんだ。
その日から少しずつ、そのお母さんに個別に声をかけてみるようにした。
廊下で会ったとき、送り迎えのついでに。「PTAのこと、正直どう思う?」って、軽いトーンで。
出てきた答えは、思っていたより正直だった。
「前例通りって楽なんだけど、毎年同じことを繰り返してるだけで、誰かの役に立ってるのかよくわからなくて」
「提案しても『去年はそうじゃなかった』で終わるから、言うのやめてた」
「大野さんが全部仕切ってくれるのはありがたいんだけど……正直、ちょっと怖い」
みんな、飲み込んでいたんだ。
思い切って「聞いてもいいですか」と言ってみた
次の役員会の前日、大野さんに個別でメッセージを送った。
「少し早めに会場に来られますか?事前に相談したいことがあって」
内心はドキドキだった。
気分を害されたら、この先の活動がやりにくくなるかもしれない。
でも、このまま全員がモヤモヤを抱えたまま1年を終えるのも違う気がした。
当日、大野さんは約束通り早めに来てくれた。
私はできるだけフラットな言い方を選びながら切り出した。
「大野さんって、今のPTAの進め方、ご自身ではどう思われてますか?」
一瞬、空気が止まった。
「実は私も、しんどかったんです」
大野さんはしばらく黙って、それからぽつりと言った。
「……正直に言うと、しんどいんです。毎年」
聞けば、大野さんが「前例通り」を押し通してきたのは、好きでそうしていたわけじゃなかったという。
「新しいことを提案すると反発が出る。責任を取るのが怖い。だから去年のやり方を盾にして、とにかく無難にまとめるのが精いっぱいで」
「みんながどう思ってるかは……正直、聞けなかった。聞いたら崩れそうで」
——崩れそう、か。
仕切っているように見えた人が、一番ひとりで抱えていたのかもしれない。
私は大野さんに、他のメンバーから聞いた本音をそのまま伝えた。
「怖い」という声も、包み隠さずに。
大野さんは泣きそうな顔で「そっか、私そう見えてたんだ」と言った。
会議が、変わった
その日の役員会は、いつもと少し違った。
大野さんが最初に「今日は去年と同じにしなくていいか、みんなで確認したい」と言ったのだ。
静かなどよめきが走った。
「バザーの品数、30品って多すぎると思ってた人いる?」
手が、ぽつぽつと上がった。
1時間かけて話し合った結果、品数を減らして代わりに子どもたちが参加できる体験コーナーを新設することになった。
誰かが「来年もこの方向で続けましょう」と言い、大野さんが「ありがとう、みんな」と小さく笑った。
帰り道の足取りがこんなに軽いのは初めてだった
あの「5分で終わる会議」が、今日は1時間かかった。
でも不思議と、疲れはなかった。
自分の言葉で、自分の違和感を口にできた。
それだけで、こんなに変わるものなんだ——と、帰り道ずっと思っていた。
大野さんから後日メッセージが届いた。
「あのとき声をかけてくれてよかった。来年も一緒にやれたら嬉しいです」
PTAって、もしかしたらこういうものなのかもしれない。
しんどいのは自分だけじゃない、と知るだけで、少し楽になれる場所。
さいごに
「例年通り」という言葉の裏に、誰かの疲れや怖さが隠れていることがある。仕切っている人が実は一番しんどかった——なんて話、意外とよくあるのかもしれません。小さな違和感を口にした一歩が、みんなの本音をそっと引き出してくれた。そんな経験、あなたにもありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント