入籍の朝、スマホが鳴った。母からの着信。「今、来られる?」声の感じで、ただ事じゃないと分かった。
婚姻届は今日。指輪も受け取り済み。なのに胸のどこかがざわついた。最近の小さな引っかかりがあったから。
「午前中に俺が出す」で押し切る
数日前、彼は言った。「午前中に俺が出してくる。お前は午後の会食の準備して」。
ふつうは二人で出すものだよね?と聞くと、「平日だし、俺の本籍この市だから。手際よくやるから任せて」。
そのときは流した。でも、婚姻届って“手際”だけで済ませるものじゃない。顔を合わせて、同じ場に立ちたかった。
「元の家庭は終わってる」と言い張る
私の違和感は、彼のメッセージの誤送信から始まっていた。夕方、「カレーでいい? 娘、喜ぶかな。○○」と、私じゃない名前が末尾に付いた文面。咄嗟にスクショを撮って、既読だけ付けて閉じた。
数日後、SNSで共通の知人が上げたイベントの写真に、彼が子どもを肩車して映っていた。キャプションには「家族でおでかけ」。公開範囲は広く、私はそれも保存した。
怖くて問い詰められなかった。言い訳を聞く形になるのが嫌で、入籍の日まで飲み込んだ。彼は相変わらず連呼した。「元の家庭はもう終わってる。俺の問題は俺が片付けるから」。
「今すぐ来て」母の声が強かった
母の部屋には父と、母のいとこがいた。母のいとこは同じ市に住んでいて、地元の知り合い経由で彼の前妻を知っているという。
「離婚してないまま別居って、聞いたの。あなたたち、今日婚姻届出すんでしょ?」
私は、保存していた誤送信と写真を二人に見せた。父は短く息を吐き、「本人に確認だ。ここに呼べ」と言った。
居間に来た彼は、「誰がそんなこと言ったの」と低い声を出した。「元のは片付いてる。今日出せばいい」
「じゃあ、書類見せて。戸籍のやつ」
「車に置いてきた。今はいいだろ」
父は首を振った。「今ここで確かめる。出さないで行くのはない」
「じゃあ窓口で確認しよう」
私は婚姻届をバッグに戻した。「市役所に一緒に行こう。私も聞きたい」
彼は顔をしかめたが、父が同席を外さず、三人で市役所へ向かった。彼が言っていた通り、本籍はこの市だ。
窓口で番号札を取り、順番を待つ。私は婚姻届を出すつもりはない。ここで彼の言葉の通りかどうかだけ聞ければいい。
窓口の方に事情を説明すると、担当の方は彼の本人確認と照合のうえ、画面を見てから言った。「現時点で、こちらの方の戸籍には配偶者の記載がございます。ですので、婚姻届は受け付けられません」
彼の手が止まった。婚姻届を持つ指先が紙を押ししだいて、視線が泳いだ。
私はスマホを取り出し、例のスクショを彼に向けた。「この“娘”、誰のこと?」
「……書いちゃっただけ。前の家のことは、もう終わるから」
「終わってないから、受け付けられないって言われたよ」
父は椅子から身を起こし、「今日は出さない。以上だ」と言った。
窓口の一言で彼の言い訳が崩れた
「離婚届は提出済みなんだ。処理が遅れてるだけ」
彼はそう付け足したが、市役所の担当の方は首をかしげた。「こちらで確認できる範囲では、現在も婚姻中です。離婚届を提出したということでしたら、受理証明書などをご確認ください」
彼は「じゃあ確認してくる」と言い残し、書類を握ったまま席を立った。父は私の肩に手を置き、「もういい」とだけ言った。
その足で私は婚姻届を封筒に戻し、「すみませんでした」と窓口に伝えた。
その後: 私は提出をやめ、彼とは終わった
翌日、彼から「誤解を解きたい」「時間がほしい」と長文が届いた。私は返事をせず、両親に付き添って住所や印鑑の手続きの確認に行った。
数日後、彼は離婚届を出していなかったと認めた。私の中で何かが止まり、同時に決まった。連絡を断つ。
母のいとこからは「向こうの家でも揉めているらしい」と聞いた。私は関わらないと決めた。仕事に戻り、週末は実家のキッチンで母と料理をした。あの日、提出しなかった自分を、やっと褒められた。
さいごに
入籍の当日に止まれたのは、家族の一言と、本人の口から出た矛盾でした。ふいに来る違和感、覚えがありますよね。信じたい気持ちと、事実を確かめる勇気。迷う場面で、あなたなら誰に相談しますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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