復職して半年が経つころ、私はもう笑い方を忘れかけていた。
シングルマザーとして保育園に預け、時短勤務でなんとか仕事を続けていた。上司の田端さん(仮名)は50代の女性で、会議では「育児と仕事の両立、応援しています」と口にする人だった。
——だが、その言葉を真に受けたのが間違いだった。
「子どもを理由にされると、チームが困るんだよね」
繁忙期になると、田端さんの態度はガラりと変わった。
「今月は残業お願いしたいんだけど、子ども、なんとかなる?」
最初はそれだけだった。でも断るたびに、言い方がすこしずつキツくなっていった。
「〇〇さんって、いつもお迎えがあるから、って言うよね」
「子どものことは一旦置いてもらえる?ここはチームで動いてるから」
一旦置くって、どういう意味だろう。私の子どもは、”一旦”どこかにしまえるものじゃない。
声に出せなかった言葉が、胸のなかでぐるぐると渦巻いていた。
泣きながら保育園へ向かった夜、スマホが鳴った
ある木曜日の夕方、また残業を断った。
田端さんは何も言わなかった。ただ、私のデスクをちらりと見て、すっと視線をそらした。
——あの視線が、いちばんつらかった。
急いでコートを羽織り、エレベーターに乗り込んだ瞬間、涙がこぼれた。走りながら泣いて、信号待ちで泣いて、保育園の門の前でなんとか顔を拭いた。
娘に「おかあさん、目が赤い」と言われて、「寒かっただけだよ」と笑った。
その夜、娘を寝かしつけたあと、スマホに着信があった。一年前に会社を辞めた先輩、松本さんからだった。
「あなたが間違ってるわけじゃないよ」——その一言で、崩れた
「なんとなく気になって」と言って電話してきた彼女に、気がついたら全部話していた。田端さんのこと、チームの空気のこと、泣きながら帰ったこと。
松本さんはしばらく黙って聞いてくれて、それから静かに言った。
「あなたが間違ってるわけじゃないよ。ちゃんとやってる。私は見ていたから」
それだけだった。解決策でも、アドバイスでもなかった。
でも、その一言で私は声を上げて泣いた。誰かに「ちゃんとやってる」と言ってもらえたのが、初めてだったから。
あれから状況が劇的に変わったかというと、正直そうでもない。田端さんはまだ同じ部署にいるし、繁忙期のプレッシャーも続いている。
それでも、「あなたが間違ってるわけじゃない」——その言葉を、しんどい時に何度も思い出す。娘を保育園に送り届けて、バスに乗って、会社のドアを開ける。その日々をを過ごせているのは、あの夜の電話があったからだと思っている。
さいごに
「子どもを理由にしないで」という言葉が、どれほど凶器になるか——。解決しなくても、「ちゃんと見ていたよ」と言ってくれる人がいるだけで、もう少し踏ん張れることがある。そんな夜を過ごしたこと、あなたにもありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント