朝いちばんのフロア。後ろから声がした。
「お前の机は今日から撤去ね」
一瞬ことばが出なかったが、決めた。ここで揉めるのはやめる。終わらせる。
「机は撤去ね」朝イチの通告
その上司は、部署の空気を一言で変える人だった。
会議では名指しで遮り、「俺が全部見る」「お前は口を挟むな」。
夜中のメッセージに「既読遅い」「常識で考えろ」。息が詰まる日が続いたが、表では仕事を回した。
企画職の僕は、社内外の複数案件を束ねる役。
工程表、原価、クリエイティブの調整、取引先との折衝。
気づけば、窓口も段取りも、ほとんど僕に集まっていた。
「代わりはいくらでも」噛み合わない指示
負荷分散を何度か提案した。「属人化はリスクです。担当を二名体制にしませんか」
返ってきたのは「お前の仕事は誰でもできる。代わりはいくらでもいる」。
なのに提出物は「俺のチェックを通せ」「文言は俺の言い方で」。筋が通らない。
ある案件が好評だった日、上司は役員の前で笑って言った。
「まあ俺の采配だな」
拍手の横で、僕は工程表を更新した。上司の言動は、勝手に証明を積み上げているように見えた。
「承知しました」僕の次の手
そしてあの朝。「お前の机は撤去ね。社内に居場所はないから」
「承知しました」
声は震えなかった。僕は引き出しを閉め、PCを開いた。
共有ドライブには、各案件の工程表、依頼先リスト、合意済み仕様、決裁済みの見積と発注番号、連絡先一覧を整理してあった。議事録は日付とトピックで探せるよう並べ、取引先への連絡はチームの共有アドレスに転送設定済み。
次に人事へ連絡し、就業規則に沿って退職届を提出。最短の退職日と、それまでの職務を「引き継ぎ業務に限定」と明記した。宛先は人事と部門長、上司はCC。紙の原本も総務に出した。
上司は鼻で笑った。「受理? 好きにしろ♪」
僕は会釈し、チームチャットに書いた。「本日より引き継ぎに専念します。詳細は共有ドライブ参照」
私物は小さな箱ひとつにまとめた。机がなくても困らない準備は済ませていた。
「進捗は?」役員の前で露呈
週明け、納品直前の案件で、誰も仕様の前提を答えられない。校正の戻し先も不明。追加発注の金額根拠が見当たらない。
上司は若手に割り振ったが、共有ドライブのどこを見るかを説明していない。取引先からの電話は「担当の方におつなぎください」で止まり、折り返しが来ないと怒りのメールが届いた。
会議室で部門長が問う。「この進捗、誰が把握してる?」
上司は「僕が全部見ています」といつもの口上。
そこへ人事担当が資料を置いた。僕の退職届と、引き継ぎ完了チェックリストだ。
「現担当は退職手続き中です。担当変更の承認が必要です」
役員室に場が移り、モニターには取引先からの文面が並んだ。
「前任の方が不在で決定者がいない」「合意事項を確認できる人がいない」
上司は紙をめくっては止まり、言いよどんだ。視線が何度もこちらに来るが、僕は「引き継ぎ資料にあります」とだけ伝えた。
「戻ってこい」遅すぎた呼び出し
昼過ぎ、上司に別室へ呼ばれた。
「なあ、席は戻す。機嫌直せ。戻ってこい」
「就業規則に沿って退職手続き中です。最終日まで引き継ぎのみ行います」
必要なことだけ伝えた。ここから感情で動くつもりはない。
数日後、部門長主導の臨時ヒアリングが開かれたと聞いた。
「机を撤去する」発言、業務時間外の執拗な叱責、単独依存の体制ミス——それぞれが並べて問われたらしい。
結果、上司は管理職を外れ、別部署で個人業務に。
同僚が「今は一人で案件をやってるよ」と教えてくれた。
入館証を返した日
最終日は、驚くほど手順通りに終わった。
引き継ぎチェックリストの最後の欄にサインし、入館証を返す。
「お世話になりました」とだけ言って、ビルを出た。
通りでスマホを開くと、以前から話していた転職先から正式オファーのメール。
面接で「なぜ退職を?」と聞かれたとき、僕は短く答えた。「体制を整えようとしたが、許されなかったから」
相手はうなずき、「うちは仕組みで回します」と言った。
その後、僕の働き方
新しい職場では、案件は必ず二名以上で持つ。
夜中の連絡は禁止。会議の議事と決定は全員に共有される。
週末に娘と公園へ行き、月曜の朝に胃が痛まない。
元の同僚から時々メッセージが来る。「前の上司、今は静かだよ」
あの人の“強さ”は、周りが支えていたものだったのかもしれない。
さいごに
「席はない」と突き放されたとき、引く選択が相手の依存を浮かび上がらせました。場所が変わると、心の余裕も戻りますよね。追い込まれた場面で、あなたならどんな準備で自分を守りますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント