結婚して8年。
家計から何かを出してほしいと夫に連絡するたび、送信ボタンの前で手が止まるようになっていた。
まさか娘の小学校の面談が、その面倒なやり取りを終わらせるきっかけになるとは思っていなかった。
「それ、本当に必要なの?」
夫は昔から、「家計は一人がまとめて管理したほうが効率がいい」と言っていた。
結婚後、給与はそれぞれ自分の口座に振り込まれ、そこから毎月決まった額を家計用の口座へ入れていた。ただ、その家計口座を実際に管理しているのは夫だった。
食費や光熱費などはそこから支払う。それ以外に子どもの教材や学校行事で急な出費があると、私は夫に「学校で○○円必要だって」と連絡する。
すると、たいてい返ってくるのは、「何に使うの?」「本当に必要?」「ほかで代用できない?」という確認だった。
学校から配られたプリントの写真を送っても、「学校が言うものを全部買う必要ある?」と返されることもあった。
もちろん、大きなお金なら相談するのは分かる。
でも、数百円、数千円の教材費まで毎回説明しなければならないことに、私は少しずつ疲れていた。
娘の「まだかな」がつらかった
娘が一年生だった夏、授業で使う絵の具セットの案内が来た。
私は夫にプリントを送った。
ところが、「家にある絵の具じゃダメなの?」と返ってきた。
学校指定ではなかったものの、授業で使いやすいよう必要な道具が一式そろったものだった。その説明をしても、「急いで買わなくてもいいんじゃない?」と言われた。
数日後、娘が「みんな絵の具持ってきてた。私のはまだ?」と聞いてきた。
「もう少し待ってね」と答えながら、胸が詰まった。
結局、私は自分の手元に残していたお金から買った。
それからも、書道用品や校外学習で必要なものなど、夫への説明が面倒になり、私が自分のお金から出すことが増えていった。
共働きなのに、なぜ娘に必要なものを買うたびに許可を取っているんだろう。
そう思うことはあった。
でも、そのたびに「家計をちゃんと管理してくれているんだから」と自分を納得させていた。
「面談? 俺も行く必要ある?」
授業参観や個人面談に、夫が来ることはほとんどなかった。
仕事と重なることもあったし、「普段見てるほうが行けばいいだろ」と言われれば、私も強くは言わなかった。
娘が三年生になった春。
担任との個人面談の日程を決める時期になり、学校から連絡があった。
娘の学校生活について少し気になることがあるので、可能なら両親で話を聞いてほしいという。
夫に伝えると、「何か問題あるの?」と珍しく反応した。
「分からない。先生から直接聞こう」と言うと、夫も予定を調整することになった。
面談で先生が話したこと
面談当日。
先生はまず、娘の学校での様子を話してくれた。
音読が得意なこと。友達とも問題なく過ごしていること。係の仕事も真面目にやっていること。
大きな問題があるようには聞こえなかった。
夫も少し安心したようだった。
ところが先生は、「ひとつ、少し気になっていることがあります」と言った。
「最近、教材の申し込みや集金の話になると、娘さんがとても気にするんです」
私は顔を上げた。
「どういうことでしょうか」と尋ねると、先生は言葉を選びながら続けた。
「『これは絶対買わないとダメですか?』『お金かかりますか?』と、何度か聞かれました」
隣で夫が動く気配がした。
「先日は、お友達が新しい教材の話をしていたときに、『うちは買えるか分からないから』とも言っていて」
胸が痛くなった。
そんなことを学校で言っていたなんて、知らなかった。
「家で、お金のことで何か話していますか?」
先生は私たちを交互に見た。
「もちろん、ご家庭によって考え方はいろいろあります。学校から案内するものも、すべて購入が必要なわけではありません。ただ、娘さん自身が『必要なものをお願いすると困らせる』と感じているように見えるのが、少し気になっています」
夫は黙っていた。
私はしばらく迷ってから、「学校関係でお金が必要なとき、家で毎回確認してから出すようにしているんです」と話した。
先生は、「そうなんですね」とうなずいた。
責めるような言い方ではなかった。
「必要かどうかをご家庭で話し合うのはもちろん大切だと思います。ただ、娘さんが自分のせいでお金がかかると思ってしまわないようにしてあげられるといいですね」
夫はそのとき初めて、「そんなふうに思ってたんですか」と言った。
帰り道、夫が黙った
学校を出てしばらく、夫は何も言わなかった。
途中で、「絵の具のときも?」と聞かれた。
「うん」
「書道セットも?」
「私が出した」
夫はまた黙った。
少し歩いてから、「俺、そんなつもりじゃなかった」と言った。
その言葉を聞いて、私は立ち止まった。
「そうだと思う。でも私は、学校から数千円の集金が来るたびに説明して、許可をもらうのがずっと嫌だった」
夫がこちらを見る。
「家計を管理することと、私が毎回申請しないとお金を使えないことは、同じじゃないと思う」
今まで何度も頭の中では言っていた言葉だった。
初めて、口に出した。
「家計のやり方、変えよう」
その夜、娘が寝たあと、夫と二人で家計について話した。
私は「全部あなたに任せる形はやめたい」と言った。
家計口座には、これまで通り二人で決めた額を入れる。ただし、口座の残高や支出は二人とも確認できるようにする。
学校の教材費、医療費、日常的に必要な子どもの費用については、一定額まではいちいち相手の許可を取らず、家計から出す。高額なものだけ、事前に相談する。
そんなルールに変えた。
夫は途中、「使いすぎにならない?」と心配していた。
私は「だから二人とも見られるようにするんだよ」と返した。
最終的には、夫もうなずいた。
「これ、学校で必要だって」
数週間後、娘が学校から封筒を持って帰ってきた。
「これ、学校で必要だって」
少し不安そうに私を見る。
私は中身を確認した。教材の集金だった。
「分かった。出しておくね」と答えると、娘は「いいの?」と聞いた。
その一言に、また胸が痛んだ。
「学校で必要なものなんだから、大丈夫だよ」
そう言うと、娘は「そっか」と笑った。
夫もその場にいた。何も言わずに封筒を見ていたが、その夜、自分から家計アプリに支出を入力していた。
その後、変わったこと
夫が急に別人になったわけではない。
今でも、「これは必要?」と聞くことはある。私も夫に同じように聞くことがある。
でも、それは「許可を出す人」と「申請する人」の会話ではなくなった。
二人で家計を見るための確認になった。
学校から集金のお知らせが来ても、私はもう夫に「これ、出していい?」とは聞かない。「今月、学校でこれだけかかるよ」と共有するだけだ。
それだけの違いなのに、ずいぶん楽になった。
そして何より、娘に「お金がかかるから言わないほうがいい」と思わせない家にしたい。
面談の日に気づけてよかったと思っている。
さいごに
家計をきちんと管理することは大切です。
でも、管理することと、一人だけがお金を使う権限を持つことは同じではありません。
夫婦の間では問題ないと思っていたルールが、知らないうちに子どもにも影響していることがあります。
「必要なものをお願いすると迷惑をかける」と子どもに思わせていると気づいたとき、あなたなら家のお金のルールをどう見直しますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント