週末の夕方のセルフレジ。スーパーのパートで働く私は、手が空いているときはいつものレジの場所から、セルフレジ側の利用状況を見ていた。あの日は、金属がこすれる鈍い音が長く続いていた。
顔を上げると、小さな布袋を握った中年の男性が小銭の投入口に体を寄せていた。
「もう入れたんだから?」の圧
「ねえ、これ壊れてない? もう入れたんだから、早く確認して」
男性は袋の口を開け、硬貨をつまんでは次々落とし込んでいた。画面には「確認中」と出たまま。投入スピードが異常に速い。
「お待ちください。いまエラー判定が出ています。いったん止めますね」
私はレジを一時停止にして、投入を止めてもらった。男性は眉を上げて、私を見下ろす。
「止めるって何? 俺、もうたくさん入れてるから。計算しといて」
「清算は、受け付けた金額だけになります。詰まりがあるかもしれません」
「壊れてるなら直せよ」
男性は口を尖らせて、さらに言葉を重ねた。
「壊れてるなら直せよ。俺のせいじゃないから」
投入口のそばには「外国硬貨・メダルは使えません」と書かれた小さな注意カード。私はそれを指して、念のため伝える。
「こちら、使えないものが混ざると詰まります」
「そんなの知らない。家の小銭なんだよ。入れたの、見てただろ?」
セルフレジにも列ができ始めた。私は隣の台にお客さんを誘導し、同僚にフォローを頼んでから店長を呼んだ。
「投入口で詰まり。投入スピードが速く、音も変でした」
店長はうなずき、鍵を受け取って硬貨ユニットを外す準備をした。
投入口を開けたら…?
ユニットを外すと、硬貨はトレイに落ちた。見た瞬間、私は声が出なかった。
丸い銀色の板。縁に溝。数字の代わりに絵柄。小さな穴が開いたものも混ざっている。明らかに硬貨ではない。
店長が種類ごとに分けていく。
「こちらは国内硬貨。こっちは外国硬貨、そしてこれは…ゲーム用のメダルですね」
男性は腕を組んだまま、視線をそらした。
「知らないよ。機械の中に最初からあったんじゃないの?」
店長は事務所へ向かい、売場カメラの映像を確認することにした。私は男性の商品を台の脇に置き、取引を保留のまま待った。
「じゃあ、これは何?」
戻ってきた店長は、落ち着いた声で男性に告げた。
「先ほどの映像に、あなたがこの銀色のメダルを指で押し込んでいる様子が記録されています。メダルと外国硬貨はご利用いただけません」
男性は口を開いたが、すぐ閉じた。
「…どれがメダルとか、いちいち分からないし」
「分からない場合は、投入前にご確認ください。今回は受け付けられていないので、支払いは成立していません。会計は取り消します。商品はこちらでお預かりします」
私はメダルと外国硬貨を別トレイにまとめ、国内硬貨だけを数えた。レジ画面の受け付け額はゼロのまま。受け付けられていない、という事実がそこで裏付けられた。
男性は荷物を取り返そうと手を伸ばしたが、店長が手を上げて制した。
「お支払いが完了していない商品は、お渡しできません」
逃げ腰の言い訳が消えた
男性は肩をすくめて、舌打ちを一つ。
「じゃあいいよ、もう要らない」
それだけ言うと、こちらを見ずに通路へ向かった。店長は防犯ノートに特徴とやり取りを記録した。
メダルと外国硬貨は別トレイでお返しを申し出た。国内硬貨は封筒に入れて、カウンターに置いた。
「会計を取り消しますので、こちらはお返しします」
男性はどれも受け取らず、足早に出ていった。
その後
レジは点検して再開。私は注意カードの位置を、視界に入りやすい高さに変えた。翌週、同じような金属音がしたときは、迷わず「一時停止しますね」と声をかけてから確認した。
あの男性は、それ以来見ていない。忙しい時間帯でも、変な音と不自然な動きは見逃さない。先に止めて確かめるだけで、列のいら立ちが広がらないと分かった。
さいごに
レジ不調のせいにした押し切りも、出てきた中身とカメラが静かに事実を示しました。売場での「もう入れたから」の圧、胸に残る人もいるはず。
慌てる場面ほど、まず止めて確認。そんな経験、ありませんか? 次に同じことが起きたら、あなたはどこで「止めます」と言いますか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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