商業施設の設備管理部で働いている。デスクで見積を精査する日もあれば、開店前の通路でモップを握る日もある。現場に入ると、紙では拾えない小さな不具合や、各社の動き方がよく見える。
その朝も開店前、通路のワックスを拭き上げていた。スタッフ用のベストに名札は作業用。足元には「濡れ床」のスタンド。そこへ、スーツの男性が早足で近づいてきて、私を見て口元をゆるめた。
「モップ係かよ(笑)」とニヤつく元同級生
「お、モップ係かよ(笑)。ここでバイト?」
顔を上げると、元同級生だった。学生のころ少しだけ付き合っていた人。今は清掃会社の営業らしい。こちらの肩書きは知らないはずだ。
「おはようございます。開店前なので、通行は右側でお願いします」
私は作業の声掛けをして、手は止めない。彼はわざと濡れた範囲へ靴先を滑り込ませ、モップを見下ろした。
「大変だねぇ。雑用回されてさ。出世、遠くない?」
無理だ、と思った。けれど今は現場。安全最優先だ。
「雑用だろ?」を重ね、安全指示も無視
「通路、今は左半分を封鎖中です。危ないのでラインの外でお待ちください」
そう伝えても、彼はスマホをいじりながら笑っている。
「連絡先、どこ? うちに発注の話、通してよ。上の人に言っといて。君がやれるの、床くらいだろ?」
通路の端では協力会社のリーダーが準備をしながら、こちらの合図を待っている。私は開始時刻を指差しで共有し、濡れた範囲を広げないよう拭き筋を切り替えた。
「ご用件は会社宛にお願いします。会議で伺います」
数日後、契約更新の打ち合わせがある。彼は手を振って去り、足跡だけが濡れた床に残った。
「決裁は私が持ちます」と名刺を出す
打ち合わせ当日。会議室には先方の営業チームと、その上司らしき男性。私はプロジェクターに、各社の対応報告と見積条件を映した。
「本日は、定期清掃と臨時対応の契約見直しです。うちの決裁は私が持ちます。まず名刺を」
肩書きには設備管理部の調達担当の役職名。元同級生の前にも一枚置くと、彼は名刺の文字を二度見して手を止めた。
「先週、開店前の通路でお会いしましたね」
私は資料をめくり、既に取ってあった各社の実績を示した。臨時要請から到着までの分数、持参した備品の一覧、作業後の報告書の精度。今日の会社の良かった点も先に挙げる。
「加えて一点。作業中のスタッフへの安全指示を無視し、個人を揶揄する発言がありました。現場協力をお願いする立場としては不適切です」
先方の上司「何を言った?」
「君、現場で何を言った?」
上司が顔を向ける。元同級生は視線を泳がせ、「いや、ちょっと冗談で」と言いかけて口を閉じた。上司は「当社として指導します」と一礼し、私は議題へ戻した。
「今回の評価項目です。価格、臨時対応の待機体制、報告様式、そして現場でのコミュニケーション姿勢。総合ではA社とB社が拮抗、御社は価格は強い一方で報連相の遅れが散見されました」
表に沿って、各社の改善提案と実行計画を確認する。私が求めているのは数字だけでなく、現場を尊重する動き方だ。
結論と反応「今回は外れます」
「結論です。次期の定期清掃はB社、臨時対応はA社のスポット契約に一本化します。今日の会社さまは、今回の範囲から外します。これまでの対応に感謝します」
先方の上司は「承知しました。次回入札のご案内をお願いします」とスケジュール帳を開いた。元同級生は書類を揃えながら、「この前のは冗談で…」と小さく言う。私は会釈し、議事の確認に戻った。
その後、私は現場に戻る
会議のあと、点検靴に履き替えて機械室の温調を見直し、通路の滑りを再確認した。ポケットには名刺入れ。ベストの上から無線が鳴る。
「今日、少し早めに入ってます。通路、左回りでやりますね」
いつもの協力会社のリーダーが声をかけてくれる。
「助かります。ありがとうございます」
モップを握る手は相変わらず忙しい。でもやることは同じだ。現場を見て、決めて、動かす。そういう相手とだけ、組めばいい。
さいごに
肩書きよりも、作業着の相手への向き合い方が物を言う出来事でした。現場で横柄な言葉、心当たりはありませんか。目の前の仕事を見てくれる人と組みたいですね。あなたなら、あの朝、何と言いますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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