土曜の午後、コーヒーが少し冷めかけていた。
テーブルの向こうで、夫と親友が並んで座る。
私はマグカップをそっと置き、二人の顔を見た。
「家も彼も、私がもらうね♡」
発端は、夫のスマホに残っていた旅行の写真。
見覚えのあるネイル、笑い声の癖。親友だとすぐに分かった。
問い詰めた夜、二人は開き直って私の前に現れた。
「やっと言える。私たち、こうなる運命だったの」
「家も彼も、私がもらうね♡」親友は肩を張って言い切る。
夫は無言でうなずき、私の顔色をうかがうだけだった。
私は一度だけ息を整え、キッチン方向へ視線をやった。
夫「もうお前の席はない」
「悪いけど、もうお前の席はないから」夫が言った。
親友は「荷物は来週取りに来て。部屋もいろいろ変えるし」と続ける。
そこまで言うのか。じゃあ、話を現実に戻そう。
私はやることを頭の中で並べ、キッチンの引き出しへ。
住宅ローンの返済予定表、固定資産税の納税通知、屋根の大規模修繕の見積書、火災保険の更新書類、管理組合からの改修計画のお知らせ——全部、青いファイルにまとめてある。
「わかった。なら、きちんと決めよう」
ファイルを持って戻ると、二人ともこちらを見た。
「では、ローンも税金も全部どうぞ」
親友がせっつく。「ガタガタ言わずに、家と彼を置いて出てって。ね?」
私はファイルを開き、机に置いた。
「了解。じゃあ『家も彼もあなたの物』でいこう。住宅ローンの残債、名義変更の費用、固定資産税、修繕積立金、屋根の大規模修繕の見積もり、保険の更新。全部セットで、どうぞ」
返済予定表の総額を示す。
「銀行の承認がないとローンの名義は変えられない。だから、家は彼が取得して全部支払う形にね。あなたは同居者になるだけ」
「私の持分は、財産分与で放棄じゃなく対価をもらう。預貯金と退職金の一部、家財の一部は私」
親友の笑顔が薄れていく。
夫も小さな声で「そんなにかかるのか」とつぶやいた。
「かかるよ。毎月の返済、管理費・修繕積立金、固定資産税。屋根は早めにやらないと雨漏りが進むし。保険の更新も来月。お望み通り“家ごと”引き受けてね」
銀行「単独で確認します」
その場で、私たちは離婚の方向で合意した。
翌週、専門家に相談して財産分与の案を正式に作成。
家は夫が取得・全負担。私は現金と家財の一部を受け取り、名義の整理を進めた。
銀行の担当者は「単独で返済できるか確認します」と説明。
夫は背筋を伸ばし、必要書類の案内を受け取った。
管理組合の理事長からは、来期の修繕計画と負担見込みを具体的に聞いた。
親友は横で「え、そんなに?」と小さく漏らす。
数日後、親友からメッセージが来た。
「修繕ってすぐじゃなくてもいいんだよね?」
「雨は待ってくれないよ」とだけ返すと、既読のまま止まった。
夫「やっぱり売ったほうが…」
引き渡しの手続きが終わる頃、夫が「やっぱり売ったほうが」と言い出した。
だが、今の相場では残債のほうが多い見込みだと分かり、顔がこわばる。
結局、住み続ける選択をし、親友は「節約しなきゃ…」と肩を落とした。
私はというと、小さめの賃貸に引っ越した。
カーテンも食器も、好きな色でそろえ直す。
朝は窓を開けて外の空気を吸い、夜は湯船にゆっくり浸かる。
通帳を開くと、財産分与の入金と給料が反映されていた。
義理も遠慮もいらない部屋で、よく眠れるようになった。
ローンの督促も、修繕の回覧も、私には来ない。
やることリストを一つずつ片づけて、新しい暮らしに手を入れていく。
その後、私が選んだ暮らし
週末は友人と市場へ行き、季節の果物を買う。
一人分の食卓は思ったより賑やかで、誰にも気を使わない時間が増えた。
あの青いファイルは、今は空っぽだ。
同じ棚に戻してある。必要になったら、また使えばいい。
さいごに
強気なひと言の裏には、手続きやお金の重さがついて回ります。感情でぶつからず、事実を落ち着いて並べると話が前に進むことも。『全部ほしい』に、あなたならどう返しますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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