買い物帰りの週末、父が「今日は俺が奢る」と言い出し、私と年長の息子の三人でショッピングモールの食べ放題に入った。
テーブルに座ると父が腕をまくっているのを見て、胸がざわついた。
テーブルには小さな立て札。「食べ残しはご遠慮ください」。
「元取るぞ、どんどん頼め」
席に着くなり、父はタブレットのメニューをぱぱっと連打した。
「定額なんだから頼まなきゃ損だ。唐揚げ大、パスタ大、ピザも二枚」
私は慌てて画面に手を伸ばした。「まずは様子見で小皿にしようよ。○○(息子)、そんなに食べられないし」
父は笑って私の手をよけた。「残したら俺が食う。心配するな」
最初の皿が届く前に、追加で麺類とデザートまで発注。テーブルの端から端まで皿が並び、息子はフォークを持ったまま目を丸くしていた。
「払ってるし残せばいい」
料理は次々届く。でも時間が経つにつれて熱いものは冷めてしまう。
息子は少し食べて「もういらない」と言った。私は小分けして食べ進めるが、明らかに多い。
「これ、減らしてから頼もう。今ある分を食べ切ってからにしよう」
私が言うと、父はメニューを閉じて肩をそびやかした。
「払ってるんだし、残してもいいだろ。店もそこは分かってるさ」
テーブルの立て札が目に入る。ここで曖昧に笑って流すと、また皿が積み上がるだけだと分かっていた。
「注意書き、確認するね」
私は席に近い通路を通ったスタッフに声をかけた。
「すみません、この注意書き、どういう決まりになってますか」
スタッフは立て札を手に取り、メニューの裏表紙も開いた。
「当店は食べ放題ですが、食べ残しが多い場合は残量に応じて追加料金をお願いしています。こちらに書いてあります」
父が「そんなの初耳だ」とぼやくと、スタッフは続けた。
「テーブルにご案内の際にご説明しています。お席にも掲示しています。量は専用トレイで計ります」
私はうなずいた。「では、今ある分を計ってもらえますか」
「残りは追加料金です」
スタッフは小さなステンレスのトレイとはかりを持ってきた。
取り分け前の大皿はそのまま、取り分けた分は私が一つずつトレイに移した。息子の前の皿は触らずに端に寄せた。
数字が出るたび、スタッフはメモに書き取る。
「こちらのピザがこのくらい、パスタがこのくらい……合計でこちらの金額になります」
父は息を吐いて財布を出した。「俺が払う」
声は小さかったが、逃げる気はないと分かった。
会計が済むと、スタッフはにこりと会釈した。
「もったいなくならないよう、小皿でのご注文をおすすめしています。追加は何度でもできます」
「次は少しずつ頼もうね」
熱いものは熱いうちに、子どもは自分のペースで。
父は自分の皿をきれいに空にしてから、私に目を向けた。
「悪かったな。次は少しずつ頼もう」
「その方が全部おいしく感じるよ」
帰り際、父は立て札を手に取って、もう一度読んだ。
「こういうの、ちゃんと見ないとな」
モールの外に出ると、息子が私の手を握った。
「今度はぼく、食べられる分だけ取るね」
「うん。おじいちゃんも、そのつもりだって」
父は少し照れた顔で頷いた。奢りたい気持ちが空回りしただけだと分かっている。だからこそ、ルールを確認してくれたスタッフの一言が、丸くおさめてくれたのだと思う。
翌週、同じ店に行ったとき、父は最初にサラダを一皿だけ頼み、「なくなったら次」と自分から言った。テーブルの上はすっきりして、私も息子も、食べたいものを食べたい量で楽しめた。
会計のとき、父がレジに向かいながら私に耳打ちした。
「今日はな、残さないぞ」
私は笑って頷いた。
さいごに
奢りたい気持ちと「元を取りたい」が混ざると、つい頼みすぎてしまうこと、ありますよね。お店のルールを共有すると、みんなが気持ちよく過ごせます。家族内で言いにくい時は、店の掲示やスタッフの一言を味方に。あなたの家では、どうやって頼む量を決めていますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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