婚活で出会った彼は、連絡も店選びも早かった。
けれど最初のLINEは「年収どのくらい?」。
小さな違和感は、デートを重ねるたびに濃くなっていった。
「年収どのくらい?」から始まった
初デートは彼が予約した一軒家レストラン。コースは一人2万円を超えた。
「こういう場所に慣れておくの、大事だよね」
彼は迷わずワインを追加。会計は「折半が常識」と言われ、私はカードを出した。
3回目のデートで大学名を聞かれた。私が答えると、彼は少し笑って言った。
「正直、僕の周りには合わせにくいかもな。まあ、それも含めて付き合っていこうよ」
何を“含める”つもりなのか。言葉が胸に残った。
「店は僕が選ぶけど、会計は折半でいいよね」
2カ月が過ぎる頃、パターンが見えた。
店は必ず彼が決める。ミシュラン掲載のフレンチ、カウンターだけの寿司、会員制のバー。どれも一軒で2〜3万円は下らない。
「店は僕が探して予約してるんだから、会計は折半でいいよね」
選ぶのも飲むのも彼寄りなのに、支払いだけは二人で半分。指摘すれば雰囲気が悪くなる気がして、私は笑って受け流した。
仕事の話題に触れると、彼は「ふーん、そういう業界ね」と言ってから、自分のプロジェクトの話に切り替える。外資系コンサルの実績を語るとき、声が少し大きくなった。
私は相づちを打ちながら、熱が引いていくのを自覚していた。
「上司と食事するから来てよ」
ある週末、彼からメッセージが来た。
「今度、上司夫妻と食事するんだけど、僕も彼女を紹介したいから来てよ」
気は進まなかったけれど断る理由もなく、指定のホテルダイニングへ。直前まで社外の打ち合わせがあり、名刺入れはバッグに入っていた。
上司は50代くらい。落ち着いた雰囲気の男性だった。
「不釣り合いな彼女でして(笑)」
席に着くなり、彼が私を紹介した。
「こちら、彼女です。ちょっと不釣り合いな彼女でして(笑) まあ、ご愛嬌で」
場を和ませたつもりなのだろう。けれど、その言葉は私に向けて投げられたように響いた。
私は名刺入れを取り出し、カードを一枚、両手で差し出した。上司の視線が名刺に落ちる。
一瞬、上司の表情が変わった。
「……○○社の方でしたか。いつもお世話になっております」
そう言って、先ほどまでより丁寧に頭を下げた。
私の会社は、彼の上司が担当するクライアント企業のひとつ。しかも私は、その案件の窓口を任されている部署の責任者だ。彼に話したことはなかった。そういう話題になる前に、いつも別の自慢に切り替わっていたから。
「え、知り合い…?」
彼の笑顔が消えた。グラスを持った手が止まる。
上司と私が名刺交換を終えると、上司は改めて会釈した。
「先日の件、迅速なご対応ありがとうございました」
「こちらこそ」と私が答えると、彼だけが席で視線を泳がせた。
「え、なんで…知り合いなの」
「取引先ですよ。共有資料の件、部長から報告を受けています」
上司が苦笑いし、「今日はただの食事だから、気にしないでね」と場を整えた。彼はメニューを開いたまま、ページをめくる指が止まっていた。
会計の時間になり、私は財布を取り出した。
「私の分は払います」
そう伝えると、上司が「今日は私が誘った席ですから」と伝票を引き取った。
彼は何も言わなかった。ただ、さっきまでの勢いが嘘のように黙っていた。
「なんで言ってくれなかったの」
帰り道、彼が口を開いた。
「なんで言ってくれなかったの」
「聞かれなかったから」
私はそれだけ言って、改札で手を振った。週明けにLINEで別れを伝えると、彼からは「そういうことか」の一言だけが届いた。
謝らないし、説明もしない。計算が合った、そんな返事だった。
トークをアーカイブして、通知を切った。
その後、私が決めたこと
あの夜の彼の一言は、私の背中を押してくれた。以降のデートはもちろんやめたし、「折半」を盾に高い店を指定する誘いも、仕事の飲み会も、同じ理屈で断っている。
不釣り合いだったのは、肩書きでも収入でもなく、相手を見る目と、相手に払う敬意だったのだと思う。
さいごに
「折半」を口実に相手の負担を増やす人、いますよね。
名刺一枚で立場が変わったのは、彼が相手を見ていなかったからかもしれません。
胸がすっとするけれど、少し切ない結末でもありました。
あなたなら、どこで止めますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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