週末の午後、風通しのいい庭で三歳の娘とシャボン玉を追いかけていた。娘のほほ笑む顔。そこへインターホンが鳴り、胸がざわついた。誰だろう、なんとなく嫌な予感がする。
「警察ですが」インターホン越しに
モニターには制服の警官が二人。「近隣から通報がありまして、お子さんの状況を確認させてください」と名乗った。私は一度うなずいて門を開ける。
「庭で遊んでいただけです。私がそばで見ています」
「失礼ですが、少し拝見しますね」
娘が私の足にしがみついた。初めて見る警官の制服に目が泳いでいる。
「通報があって…確認を」娘は家の中へ
娘は怖がっている。ここで無理はさせない。「娘は家の中で休ませます。私が説明しますね」
警官もうなずき、私は夫に娘を託して玄関先で応対に切り替えた。夫は娘を抱いて室内へ。リビングのエアコンはすでに入っていた。
「日陰と水分、ここです」
「遊んでいた場所はどちらですか?」
「こちらです。タープで日陰にして、保冷ボトルの水はここ。帽子は着用、30分おきに休憩しています」
朝から敷いたゴザ、日焼け止め、予備のタオルを順に指さす。スマホには休憩の時刻をメモしてある。警官は携帯の温度計を当てて地面の温度を確認し、「直射日光は避けられていますね。さっきお子さんの顔色も見ましたが問題なさそうです」と事務的に言った。
「通報内容は何でしたか?」
「『炎天下で放置されて泣き叫んでいる』というものです」
泣いてなんていない。誰が、何のために。
「町内会にも確認します」
道路の先で、腕を組んでこちらを見る向かいの住人の女性がいた。これまでも町内会経由で「子どもの声が響く」「ボールの音がうるさい」と連絡をしてきた相手だ。
「町内会に苦情の履歴があります。必要なら照会してください」
私がそう言うと、警官はうなずき、私の携帯をスピーカーフォンにして町内会長に発信した。
「そのお宅からは同様の連絡が複数回あります。ただ、時間帯や内容が重なっていて…」
担当者が記録を読み上げる間、私はメモを手元に置いた。警官は「こちらからも児童相談所に連絡してあります」と伝えてきた。
約40分後、児童相談所の職員が到着。「状況だけ確認させてくださいね」と言って、タープ、飲み物、休憩の間隔、私が常に見守っていたことを一つずつ見ていく。職員は娘の様子も室内で軽く確認し、「いつも通りで大丈夫ですよ」と夫に伝えた。
「昼寝できないから」だと?
警官と職員は向かいの女性にも事情を聞きに行った。戻ってきた警官が言う。
「『子どもの声で昼寝できないから、こうするしかないと思った』とのことです。放置の事実は確認できませんでした」
そんな理由で通報したのか、と言葉が出なかった。児相の職員は短く告げた。
「虚偽の通報は、本当に支援が必要な家庭への対応を遅らせます。今回は女性に厳重注意させていただきます。今後、気になることがあれば町内会を通すこと、緊急性のない通報は控えることをお伝えしておきます」
「厳重注意。連絡は一本化で」
町内会長も電話口で「以後、当事者同士の接触は禁止。連絡はすべて私経由にします」と確認してくれた。警官は「本件は記録に残します」とだけ告げ、児相の職員は「何かあればすぐ連絡してください」と名刺を置いた。
「ご対応、ありがとうございました」
私が頭を下げると、夫が「娘、絵本読んでるよ」と手を振った。リビングでは、娘が麦茶を飲みながら大好きな動物図鑑をめくっていた。
「それからの静かな午後」
その後、向かいの女性から直接の視線や声かけは一切なくなった。町内会長からは「以後、問題なし」との連絡。私たちは遊ぶ時間帯をこれまで通り昼前後に固定し、庭先に「休憩中」と書いた小さな札を置くようにした。家族の合図として、続けている。
あの日、感情でぶつからず、権限のある人に見てもらってよかった。娘はすぐ室内へ。大人のやりとりは大人だけで進める。それだけで十分だったと思う。
さいごに
通報は命綱にもなるし、誰かを傷つけもします。気になるときほど、まず確かめる窓口を使うのが安心ですね。暮らしの音の感じ方は人それぞれ。あなたなら、似た場面でどう動きますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント