宅配の時間に合わせて昼ごはんを片づけていたら、めったに鳴らない固定電話が鳴った。
表示は見知らぬ番号。宅配の連絡かもしれないと思い、受話器を取った。
「『母さん助けて!』の固定電話」
「母さん、助けて…俺、事故で…」
泣きまじりの男の声。名乗りがない。荒い息だけが続く。
「どちら様におかけですか」
そう聞くと、「俺だよ。番号変わったんだ」と曖昧な返事。こちらに名前を言わせたいのがわかった。
「今、上の人に代わる。すぐ対応しないと面倒になる。携帯は止められてる。家にあるお金でもいいから用意して」
宅配どころではない。怖いより先に、妙だと思った。
「『名前は?』に答えない催促の連発」
「お名前をお願いします」
はっきり言っても、「それは後で。今は急いで」と被せてくる。名乗らない、質問に答えない、急がせる。この三つがそろっていた。
「では会社名は?」「どちらの部署ですか」「場所はどこですか」
畳みかけても、「説明はあと。まずは振込先を伝える」と同じ調子。こちらが知りたい情報を何も言わない。
受話器の向こうで紙がめくれる音がして、「口座番号…」と読み上げようとした瞬間、私は言う言葉を決めた。
「うちには子どもはいません」
「すみません。うちには子どもはいません。どちら様におかけですか」
短く、事実だけを返した。
「数秒の沈黙、そして通話は切れた」
一拍どころか、数秒間なにも返ってこない。さっきまであった息づかいも消えた。
次の瞬間、通話が切れた。
私は受話器を戻し、画面に出ていた番号をメモ帳に写した。手は震えていなかった。やることは分かっていたからだ。
「切れた直後、番号を控えて相談」
同じ電話が他の家にも来るかもしれない。そう思い、地域の消費生活センターに電話を入れた。
「固定電話に、名乗らず『母さん助けて』と言われ、お金を急がされました。こちらが『子どもはいない』と伝えたら切られました。発信番号は表示されていました」
起きた順に伝える。相手に折り返しはしていないことも付け加えた。
「典型的な詐欺電話の手口ですね。番号、控えていらっしゃいますか?」
メモを読み上げると、「情報として受け取ります。被害が出ないよう、地域の注意喚起に活用します」とのこと。こちらの氏名や詳しい住所は求められなかった。
「今後、同じような電話があればどうすれば?」と聞くと、「名乗らない相手には個人情報は言わないで大丈夫。心配なら、身近な家族や知人に自分から確認してください」と教えてくれた。
電話を切ったあと、固定電話は留守番電話を基本にし、番号表示のない着信は取らない設定に変えた。付箋に「名乗らない電話は切る」「表示のない番号には折り返さない」と大きく書いて電話機の近くに貼った。
「近所にも共有。『うちにも来た』の声」
数日後、買い物帰りに顔を合わせた近所の人に「こういう電話が来た」と話すと、「うちにも来た」「名乗らなかった」と何人かがうなずいた。中には「最初に『○○?(息子の名前)』って言いそうになった」と苦笑いする人もいて、呼びかけから名前を引き出す狙いだと皆で確認した。
後日、町内会の回覧に「不審な電話に注意」の紙が入り、まさに『家族を名乗って金銭を急がせる』例が載っていた。番号までは出ていなかったけれど、あの日センターに伝えたことが、どこかで役に立ったのかもしれないと思った。
その後
その番号からの着信は、その日以降ない。固定電話は宅配の連絡が主で、大事な用は私からかけるようにした。急がせる声に合わせる必要はない。
あのとき「子どもはいません」と言えたのは、事実が私の味方をしてくれたから。誰にでも通じるのは「名乗らない相手に、こちらの情報を出さない」ことだと思う。私は受話器を置き、番号を控え、必要なところにだけ知らせた。
さいごに
名乗らずに急がせる電話は、受ける側が主導権を取り返せるときがあります。怖い思いをした人も、多いですよね。まずは自分の情報を出さず、困ったら公的な相談窓口を頼っていい。あなたなら、どんな合言葉を家族で決めておきますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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