幼稚園の駐車場で、「ついででいいから」の一言がクセになる人がいる。
最初は軽く引き受けた私も、回数が増えるにつれて落ち着かなくなっていった。
ガソリン代も駐車場代も私持ち。ありがとう以外は、何もない。
「ついででしょ?」幼稚園前で腕を引かれ
同じクラスのママが、門の外で私の腕を軽くつかんだ。
「ねえ、そっち方面だよね? 家、ほら近いし。ついでに乗せてって?」
子どもたちは仲良しだし、私は車。彼女は普段、自転車。今日は徒歩。
その日は雨上がりで路面が濡れていたから、「いいよ」と言った。
助手席の足元に散らかった上履き袋を慌ててどけて、彼女の買い物袋を乗せた。
最初の1回は、たしかに“ついで”だった。
「今日は寄り道いい?」謝礼はゼロのまま
翌週。「今日はドラッグストア寄っていい? すぐだから」
子どもを後部座席に座らせてから言われる。断りづらいタイミング。
駅前のドラッグストアだったので駐車場はなく、近くの有料駐車場へ停める。買い物が終わって私が駐車場の精算機に小銭を入れている間、彼女はスマホ。
「今度ランチ行こうね」と笑うけど、具体的な話にはならない。
そんな日が、週に2〜3回に増えた。
幼稚園の前で目が合うと、手を振られて「今日もお願い」。
「ATM寄ってくれる?」「こっち回ってくれる?」と、遠回りのルートを指定されることも増え、時間もガソリンも食う。
自分の子に「今日は公園寄ろうか」と言いかけて、彼女の「ちょっと寄り道」で予定が消える。
家に帰って家計アプリとレシートを見直すと、駐車代とガソリンで1回あたり数百円は消えていた。
夫「じゃあ一緒に乗るよ」私の弱さを見抜かれ
夜、キッチンでため息が出た。
「今日も“ついで”って言われた」と夫にこぼすと、夫は手を止めた。
「回数、どのくらい?」
「今月はけっこう。駐車場代も何回か払ったし」
夫はレシートの束と給油記録を見て、「だいたい1回500円くらいだな」と言った。
走行距離、ガソリン、駐車場。ざっくり足した数字だ。
「言いにくいなら、俺が一緒に乗るよ。休みの日に合わせればいい」
私は首を振った。「角が立たないかな」
「“ついで”って言うなら、こっちも“ついで”じゃないって伝えるだけ。ケンカじゃない」
夫「精算しよう、1回500円で」その場で提案
夫の休みに合わせて、送りの時間に夫も助手席へ。
幼稚園の門前で、いつもの彼女が車に近づいてきた。
「ねえ、今日もお願いしていい? 雨上がりで道、ぬれてるし」
私は一瞬、言葉が出なかった。その代わりに、夫が窓を少し下げて口を開いた。
「おはようございます。これからは割り勘にしましょう。1回500円で、今日からお願いします」
彼女の動きが止まる。
「え、あ…小銭いま持ってなくて」
「お札でも大丈夫です。細かいのは用意あります」
夫は小さな封筒を手にしていた。千円札と小銭を分けて入れてあり、受け取りやすいように用意してくれていたらしい。
「えっと…今日は急いでるから、また今度で」
「今日のところはわかりました。ただ、こちらも費用がかかるので」
夫の声は穏やかで、用件だけを伝える調子だ。
私はバックミラーで子どもの顔を見た。いつも通り、絵本をめくっている。
「え、今は…小銭ないから」彼女の反応
彼女はバッグの中をごそごそしながら、目を上げない。
「ほんとに500円かかるの?」
「ガソリンと駐車場で、そのくらいです。遠回りのときは少し上がりますが、まずは500円で」
夫が短く答えた。
「じゃあ、今日は自転車で行くね。ごめんね」
彼女は握っていた傘を持ち直し、門の方向に踵を返した。
信号が変わる。私はウインカーを出して発進した。
車内の空気が軽くなる。助手席の夫は何も言わない。
帰り道、メッセージは来なかった。謝罪も、説明もない。
でも、その日を境に「ついででいいから」は消えた。
「また今度ランチしようね」は来なくなった
翌週、園庭で顔を合わせた彼女は、私の横を通り過ぎるときだけ「おはよう」と言った。
その後、送迎の時間帯が少しずれたのか、門の前で会うこと自体が減った。
こちらからは追いかけない。
会ったら挨拶だけする。余計な話はしない。
子どもの約束ごとは、先生を通して伝えるようにした。
送り迎えは、自分のペースに戻った。
ドラッグストアに寄る日も、公園に回る日も、私と子どもで決める。
給油に立ち寄る金曜の午後、メーターを見ても、嫌な計算をしなくて済む。
夫に礼を言うと、「言うだけ言っただけだよ」と笑った。
「ごめん、私がはっきり言えなくて」と私が言うと、
「困ってるのに笑って流すのは、優しさじゃないこともある」と返ってきた。
そこでやっと、残っていた引っかかりが外れた。
その後、送迎ストレスが消えた日常
息子と帰り道に見つけた小さな公園に寄り、ベンチでおやつを分ける。
「あの子のママ、今日は乗らないの?」と息子に聞かれて、「それぞれの用事があるんだよ」とだけ答えた。
無理をして誰かの都合に合わせなくていい。そう思えるだけで、気持ちが軽い。
彼女とは、いまは挨拶だけの距離。
でも、それで困ることは何もない。
必要なことは園を通して動く。車は、私と家族のために使う。
これからも、そうする。
さいごに
“ついで”の積み重ねは、いつの間にか重荷になります。口にして区切るだけで、日常はぐっと楽になりますね。
読んでいて、自分の周りの「それ、当たり前じゃないよね」を思い出した方もいるはず。
あなたなら、どこで言葉にしますか? 小さく伝える一歩、考えてみませんか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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