婚活パーティーで、人はここまで正直に本性を出せるものなのか。隣に座った男性のひと言から、少し意地悪な気持ちが芽生えた夜の話をさせてほしい。
「どこの大学ですか?」──開口一番のマウント
会場は都内のホテルで開かれた、30代向けの婚活パーティーだった。
テーブルに着いてほどなく、隣の男性が名刺入れをさりげなく見せながら話しかけてきた。
「自分はベンチャー企業の代表をしております。ちなみに……あなたはどこの大学出身ですか?」
挨拶より先に学歴。——ああ、そういうタイプか。
出身校であり、地元ではそこそこだった私立大学の名前を答えると、彼の目が一瞬だけ曇った。口元は笑っているのに、興味の火がすっと消えていくのが分かった。
「あー、そうなんですね。お仕事は?」
「事務系です」
「ふうん」
それ以上は聞いてこなかった。
「一流じゃない女性とは釣り合わない(笑)」
席替えの時間になり、彼は別のテーブルへ移った。
ところが終盤、グループトークのコーナーで再び同じテーブルになってしまった。彼はすでに別の女性と盛り上がっていて、その女性が大手メーカーに勤めていると分かると、目に見えて態度が変わっていた。
「やっぱり僕、一流企業にいる女性じゃないと釣り合わないと思うんですよね。正直に言うと(笑)」
笑いながら言う。さらっと、でも確実に、その場にいた全員に聞こえる声で。
隣で苦笑いしていた女性と目が合った。私は何も言わなかった。
——今日は言わなくていい。まだ。
「また話したくて」──ダメ元で届いた連絡
このパーティーはカップリング発表があるタイプではなく、連絡先の自由交換ができるシステムだった。
正直、彼から連絡が来たのは意外だった。パーティー終盤、あれだけ「一流企業じゃないと」と熱弁していたのだから、彼のお目当ては間違いなくあの大手メーカーの女性だったはずだ。
(……ああ、あっちには振られたんだな)
そう察がついた。本命に相手にされず、数撃ちゃ当たるで私にもメッセージを送ってきたのだろう。
普通ならスルーするところだが、何かが引っかかっていた。「自称経営者」の肩書きに、どこか作り物めいた匂いを感じていたから。
「またお話ししたくて」という調子のいい連絡に応じ、二度目のデートへ向かった。彼が選んだ、少し気取ったイタリアンレストランへ。
食事の間中、彼は自分の会社の話を続けた。「資金調達が」「IPOを視野に入れて」「大手金融系とも繋がっている」とも言っていた。
私はうなずきながら、ひとつだけ確認した。
「会社、登記はいつされたんですか?」
「え……去年の秋ですね。なんで?」
「いえ、ただ聞いてみたくて」
去年の秋。つまり設立から半年。名刺には代表取締役とだけある。”ベンチャー経営者”は嘘ではないかもしれない。でも、あの夜の言葉の重みとは、ずいぶん違う。
デザートが来る前に、名刺を置いた
食後のコーヒーが運ばれてきたころ、私はバッグから名刺入れを取り出した。
「そういえば、ちゃんとご挨拶していなかったですよね」
テーブルに、一枚そっと置いた。
彼が名刺を手に取る。数秒の沈黙。
私の名刺には、誰でも知っている省庁の名前と、「主任研究員」という肩書きが印刷されている。その職種がどういう経緯でなれるものか、少し調べれば分かる。
「……え」
「事務系、というのは嘘ではないんです。書類仕事も多いので」
彼の顔から血の気が引いていくのが、はっきり分かった。
「あの、もしかして……最初から知ってて?」
「いえ。ただ、あのパーティーでの発言が少し気になって」
「え……?」
「一流じゃない女性とは釣り合わない、っておっしゃっていましたよね」
彼は何も言ってこなかった。
——こちらが黙っていた理由は、意地悪ではない。ただ、本当のことを言う前に、あなたが何を見ているか知りたかっただけ。
「代表取締役」のメッキが、同時にはがれた
しばらくして、彼は小さな声で言った。
「実は……今の会社、社員は僕一人で。売上もまだほとんどなくて」
そうか。やっぱり。
「それは全然いいんですよ」と私は言った。本当にそう思った。起業したばかりで苦しいのは、責める話ではない。
ただ、あのパーティーの「釣り合わない(笑)」発言は、消えない。
「ただ、私自身の価値を学歴や会社名で決められるのは、少し悲しかったです」
彼はうつむいたまま、何も返せなかった。
そんな会話をして、その日は別れた。
その後、彼からの連絡は来ていない。
名刺1枚で、見えてきたもの
あのパーティー以来、私は自分の名刺をすぐには出さないようにした。
最初に肩書きを明かせば、「すごい」と顔色が変わる人がいる。でも私が知りたいのは、何も知らない状態で、相手が自分をどう扱うか——それだけだ。
婚活は、相手を選ぶ場でもあるけれど、自分がどう見られているかを静かに確認できる場でもある。
あのパーティーのひと言が、いちばん正直な自己紹介だったのかもしれない。
さいごに
肩書きを知る前と後で、あんなに態度が変わってしまう——その落差が、いちばんの答えだったのかもしれません。見た目や学歴だけで人を測ろうとする人に、こっそり傷ついた経験、あなたにもありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



コメント