義父の介護が始まった。
近くに住んでいて実際に動けるのは、私と夫。一方、義父のお金の管理を任されたのは、遠方に住む義兄だった。
最初は役割分担だと思っていた。でも数か月後、私は介護用品のレシートが詰まったファイルを前に、「このやり方、本当に大丈夫なのかな」と考えるようになった。
「お金の管理は俺がやる」
義父が要介護2の認定を受けた頃、物忘れも増え、公共料金や医療費の支払いを一人で管理するのが少し難しくなっていた。
家族で話した結果、義父本人も了承し、通帳や支払い関係の書類は義兄がまとめて管理することになった。
義兄は電話で、「お金のことは俺がやるよ。母さんのときも俺が見てたし」と言った。
それ自体には反対しなかった。
ただ、義兄の家までは車で3時間ほどかかる。通院の付き添いや買い物、介護用品の補充など、日常的に動くのは徒歩15分ほどの場所に住む私たちだった。
「必要なものを買ったら、あとでレシート送ればいいよ」
そう言われ、そのときはそれで回ると思っていた。
立て替えが少しずつ増えていった
介護が始まると、細かな買い物が想像以上に多かった。
おむつ、防水シーツ、栄養補助食品、衛生用品。病院で必要になったものや、デイサービスから用意するよう言われた日用品もある。
そのたびに義兄へ送金を頼むのも面倒で、最初は私や夫が立て替えていた。
私は自分のカードで支払い、レシートをファイルに入れた。
夫も、「まとめて兄貴に送ればいいよ」と言っていた。
一か月分をまとめた頃、私は夫に、「そろそろ精算お願いしてくれる?」と頼んだ。
夫は、「うん。今度話すよ」と答えた。
ところが、しばらくたっても話は進まなかった。
もう一度聞くと、「兄貴も忙しいみたいだから、もう少したまってからでいいんじゃない?」と言われた。
そうして2か月、3か月と過ぎた。
一回の支払いは数百円から数千円でも、積み重なると金額は大きくなる。レシートのファイルだけが、少しずつ厚くなっていった。
「必要かどうかは俺が確認する」
4か月ほどたった頃、夫と一緒に義兄へ精算の話をした。
私はこれまでのレシートを月ごとにまとめ、合計額も出していた。
夫が、「介護用品をかなり立て替えてるから、一回まとめて精算したい」と伝えると、義兄は電話口で言った。
「レシート送って。必要なものか確認してから振り込むから」
それだけなら、まだ分かる。
ところが私が、「今後も同じように立て替えるなら、月ごとに精算する形にしませんか」と提案すると、義兄の声が少し硬くなった。
「そこまで細かく決めなくてもいいだろ。足りなくなったら言ってくれればいいよ」
さらに、
「通帳の出入りまで全部説明する必要はないだろ。こっちはちゃんと管理してるんだから」
と言われた。
私は何も言えなくなった。
義父のお金なのだから、私が通帳を自由に見せてほしいと言える立場ではないのかもしれない。
でも、現場で必要なものを買うたびに私たちが立て替え、その精算時期も金額も義兄の判断次第という状態には、やはり無理がある。
その頃には、私たちの立て替え額は10万円を超えていた。
レシートを並べて、夫にも見てもらった
ある夜、私はレシートをすべてテーブルに並べた。
月ごとの合計と、何に使ったかを一覧にした。
夫も隣に座り、一緒に確認した。
「こんなにいってたんだ」
夫が言った。私は少し腹が立った。
「ずっと精算してほしいって言ってたよね」
夫は黙った。義兄とのやり取りだけが問題なのではない。
夫が兄との話し合いを後回しにし、その間、私が自分のお金で立て替え続けていたことも問題だった。
「もう、このまま私のカードで払い続けるのはやめたい」
私はそう伝えた。
「介護に必要なお金を出したくないわけじゃない。でも、誰が払って、いつ精算するのか分からないまま続けるのは無理」
夫はしばらくレシートを見たあと、「分かった。俺から兄貴にもう一度話す」と言った。
「月末にまとめて精算する」に決めた
翌日、夫から義兄へ連絡した。
今までの立て替え額と一覧表を送り、まず未精算分を確認してほしいこと。そのうえで、今後は月末にレシートをまとめ、翌月までに精算する形にしたいことを伝えた。
義兄は最初、「そこまで形式ばらなくても」と言ったそうだ。
それでも夫が、「こっちもずっと立て替えられるわけじゃない。現場で買う人と、お金を管理する人が別なら、やり方を決めないと続かない」と話した。
最終的に、これまでのレシートを確認したうえで未精算分は義父のお金から戻してもらうことになった。
今後についても、毎月まとめて明細を共有し、必要な費用は定期的に精算することになった。
高額なものを買う場合だけ、事前に兄弟で確認する。
ようやく形が決まった。
「介護する人が立て替える」が当たり前にならないように
それからは、私もレシートをため込まなくなった。
月末になれば一覧にして夫へ渡し、夫と義兄で確認する。
以前のように、「いつ返ってくるんだろう」と思いながら自分のカード明細を見ることも減った。
義兄が悪意を持っていたのかどうかは、今も分からない。
本人としては、「自分がお金を管理しているのだから、必要なものだけ後から払えばいい」と考えていただけなのかもしれない。
私たちも、「家族なんだから細かく決めなくても何とかなる」と思っていた。
でも介護が続けば、お金も継続して動く。
誰が通帳を持つのかだけではなく、誰が日々の支払いをするのか、立て替えた場合いつ返すのか、高額な支出は誰に確認するのか。
そこまで決めて、初めて「管理」なのだと思う。
介護の現場にいる人が、その場その場で自分のお金を出し続ければいいわけではない。
あの夜、膨らんだレシートのファイルをテーブルに出してよかった。
数字にして初めて、夫にも私にも、「このままでは続かない」とはっきり見えたからだ。
さいごに
家族の介護では、実際に買い物や付き添いをする人と、お金を管理する人が別になることがあります。
その役割分担自体が悪いわけではありません。ただ、「とりあえず立て替えて、あとで精算」の“あとで”が曖昧なままだと、誰か一人に負担がたまってしまいます。
誰が何を払い、いつ精算するのか。介護が始まった段階で決めておくことも、大切な準備のひとつなのかもしれません。
家族の介護費用、あなたの家では誰が管理し、誰が実際に支払っていますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

コメント