引っ越して半年が経ったころ、ポストを開けるのが少しだけ怖くなった。
チラシや郵便物に混じって、週に一度、必ず届く小さなメモ。差出人の名前はない。
最初は「親切な人がいるんだな」と思っていた
最初の一通は、引っ越してひと月ほどたった秋口のことだった。
「玄関マットが少し斜めになっていますよ。気になったので」
丁寧な字で、そう書いてあった。
——あ、気にしてくれる人がいるんだ。
正直、最初はそんなふうに受け取った。確かにマットがずれていることもあるし、気遣いなのかもと思って特に気にしなかった。
でも翌週、また届いた。
「表札の位置が他のお宅より低いように見えます。揃えると綺麗ですよ」
……え、そういうもの?
「植木の向き」「傘立ての色」まで監視されていた
それからというもの、メモは週一のペースで届き続けた。
「玄関脇の植木が道路側に傾いています」「傘立てが外から丸見えです」「ドアマットの色が少し派手かもしれません」。
書き方はいつも丁寧だ。命令口調でも怒っているわけでもない。むしろ「お節介な親戚のおばあちゃん」みたいな温度感で、どこか善意が漂っている。
それが、余計に困った。
悪意があれば「無視しよう」と割り切れる。でもこれは……なんなんだろう。クレームとも違う。放置するのも落ち着かない。
ある日、ウォーキング中の高齢の女性が、うちの玄関先でじっと立ち止まっているのを窓から見かけた。70代くらいで、小さなメモ帳を手に持っていた。
——あの人だ。
確信はなかったけれど、たぶんそうだ。悪い人には見えない。でも、どう声をかければいいのかも分からなかった。
感情の持っていきどころが、どこにもない
夫に話したら「無視すれば?」と言われた。
友人に話したら「え、怖くない?」と言われた。
でも実際は、怖いとも言い切れないのだ。ただただ、モヤモヤする。
管理会社に相談するほどのことなのか? 警察に言うような話でもない気がする。直接「やめてください」と伝えに行くのも、角が立つ気がして踏み出せない。
相手に悪気がないぶん、こちらもどこにも感情の持っていきどころがない。
ポストを開けるたびに「今日も来てるかな」と確認してしまう自分がいて、それが地味にストレスだった。
引っ越してきたときは「静かな住宅街でよかった」と思っていたのに、今は「ご近所付き合いって難しいな」とため息をついている。
今日も、メモが一枚、折りたたまれて入っていた。
「玄関の照明、少し暗いと思います。防犯のためにも明るくされては」
……うん、確かに暗いんだけどね。
さいごに
悪意がないだけに「迷惑です」と言いにくい——これ、すごくリアルな困りごとですよね。怒る気にもなれないけど、モヤモヤだけが積み重なっていく。そんな「どこにも言えない違和感」を抱えているかた、きっと少なくないはず。あなたのご近所にも、こんなことありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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