娘の文化祭で、教室の前に立って作品を撮っていたら、携帯が震えた。
画面に出たのは、母がお世話になっているデイサービスの番号。
出ると、第一声が「今月分のご入金が確認できず、お迎えに行けません」で、頭が真っ白になった。
「未払いでお迎えできません」
母は週3回デイに通っている。父が亡くなったあと、介護の段取りを兄と私で分けた。
母は判断力もしっかりしていたが、支払いの手間を減らすため、介護費専用の自分名義の口座を作り、兄に管理を任せていた。兄は「金の管理は俺がやる」と言って、母の了解を得て通帳を預かった。
私は在宅勤務というだけで、通院の付き添いと夜の見守り、買い出しを丸ごと引き受けた。
電話口の職員さんは続けた。「登録上の支払い担当はお兄さんです。何度かお電話しましたが出られなくて。緊急連絡先に○○さん(私)の番号もあったので…」
「分かりました。兄に今すぐ連絡します。そちらからも、もう一度かけてもらえますか。支払いと今日のお迎え、兄が責任を持ちます」
私は娘の出番の時間を確認して、廊下の隅に移動した。
兄「介護はお前、金は俺」
兄は前からこうだった。
「お前は在宅なんだから動けるよな? 夜は母さんの家に泊まって」
「レシートはあとでまとめて俺に送れ。精算するから」
精算は遅れがち。こちらが何度か催促して、やっと「来月に回して」なんて返事が来る。
約束していたのは、デイの利用料は兄がまとめて払う、という分担。だから今日の未払いの件は、完全に兄の担当だ。
私は兄に電話をかけた。出ない。メッセージを送る。「デイから未払いでお迎えに行けないって連絡来てる。すぐ電話に出て」
職員さんにも「もう一度兄に」と頼むと、「かけます」と返ってきた。
「担当は兄さんですよね?」
数分後、兄からようやく着信。
「今日は無理。俺、会議中。お前が行って払っとけ」
「支払い担当はお兄ちゃんで登録されているよ。だから施設のスタッフさんもお兄ちゃんに連絡しているよね?」
向こうで舌打ちが聞こえた。「あとで払う。今日は来なくていいって言ってくれ」
「それは私からは言えないよ。施設に直接言って」
私はそこで会話を切り、職員さんに状況を伝えた。「兄が今、直接お話しします」
しばらくして、職員さんから折り返し。「お兄さんから連絡がありました。今日中に入金されるそうです。お嬢さんの行事、大丈夫ですか?」
「はい。ありがとうございます」
娘のステージが始まる時間に、私は席に戻れた。
その日の夕方、兄が自分でデイに出向き、料金を払ったと職員さんから連絡があった。
走り回った兄、家でも詰められ
数日後、兄の妻から電話が来た。「ちょっと聞きたいんだけど。お義母さん介護費の通帳、あなた知ってる?」
「お兄ちゃんが預かってるけど、どうしたの?」
「スマホの家計アプリに、見慣れない出金がいくつも出てきたの。塾の月謝の直前に大きく引き出して、同じ日に塾の口座へ入金してる。名義はお母さんの介護費口座だよね?」
私は答えに詰まった。事実を知らないからだ。
「お兄ちゃんに確認してから折り返す」
その夜、兄からメッセージ。「嫁に余計なこと言うなよ」
返事は一文。「家族で話そう。お母さんの前ではやらないから」
週末、実家に集まった。兄の妻は出金の明細を印刷して持ってきた。
施設名に入金した日付と、塾へ振り替えた日付が並ぶ。
兄は最初、「一時的に立て替えただけ」と言い張ったが、兄の妻が明細を机に置いて言った。「じゃあ、戻した履歴は?」
黙り込む兄。母の介護費口座から、自分の子の塾代に回していたことが、そこで家族に伝わった。
「分けて透明に」で通帳が戻る
私は提案した。「管理できないなら、皆で分けてわかるようにしよう。デイの利用料は母の年金口座から口座振替に。臨時の費用は、出した人がその場で払って、領収書で精算。通帳と印鑑は母が別々に保管し、兄と私は母の同意のもとで月末に明細を一緒に確認」
兄はうなずかない。兄の妻が横から言った。「もう私も疲れた。流用はあなたの貯金からやって、通帳は戻して」
観念した兄は、通帳と印鑑を金庫に戻し、流用分は自分の貯金から母の介護費口座へ振り戻した。その場で口座振替の用紙も書いた。
その後、学校と介護の両立
分担も見直した。夜の見守りを週1で兄が、週1で私。通院は私、週末の泊まりは兄。急な呼び出しは、まず担当日に入っている方が行く。
私は「全部私」が当たり前になっていた夜の呼び出しを断れるようになり、娘の予定も先にカレンダーに入れられるようになった。
兄からは時々「今月のデイ代、ちゃんと落ちた?」と連絡が来る。私は「通帳見れば分かるでしょ」と返すだけで済む。
母は変わらずデイで体操をして、帰宅後に好きな歌を口ずさむ。お金と役割を一人に抱えさせないだけで、家の空気は軽くなった。
さいごに
介護とお金の管理を一人に集中させると、負担も確認漏れも増えやすくなります。あなたの家では、支払い、連絡、確認を誰が担うか、どこまで分けていますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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