昼休み、駅ナカの小さなカフェ。やっと空いた一人席に腰を下ろし、マグカップを両手で持った、その瞬間だった。
背中に人影。「そこ、私の席だから」
「そこ私の席、どいて?」
「えっと、ここのお店の席は好きなところに座っていいですよね?」
私が返すと、女性は眉を上げ、テーブルを指先で小さくたたいた。
「いつもここなの。あなた初めて見るわ。わかるでしょ?」
わからない。番号札も予約札もない。女性の足元には大きめのトート。持ち手が椅子にかかっている。先に確保したつもりらしい。
半歩近づいた女性が低い声で言う。「どいてくれる?」
私はカップを持ち直し、背中を起こした。どう答えるか迷って、言葉が出てこない。
女性「ここ、私の場所よね?」
女性が店員を呼んだ。「ねえ、ここ、いつも私の場所よね?」
店員は私たちを見比べて、小さく笑った。
「お席はご自由にお使いください。ただ…混み合ってまして。もしよろしければ、あちらのカウンターも空いてます」
指されたのは壁際の高いスツール。空いてはいる。私はすでにコートも鞄も置いて、ようやく落ち着いたところだった。
私は一度だけ店員を見た。助け舟を待っていたのかもしれない。けれど、女性の視線は私にまっすぐ向いたまま。
「じゃあ、テイクアウトにします」
自分の声が軽く聞こえた。立ち上がると、女性は椅子を引いてすぐに座る。「助かるわ〜」と、にこやかに言った。
店員は会釈して「すみません…」。
トレーを持って歩き出しながら、他のテーブルを見る。荷物だけが置かれた席がいくつかある。自由席のはずなのに、早い者勝ちと“顔なじみ”で回っているように見えた。
改札へ歩きながら考えたこと
改札へ向かう人の流れにまぎれ、紙袋の端をいじってしまう。常連が大事なのはわかる。私だって、顔を覚えてくれる店は好きだ。
でも、店員の返しと女性の強さを見て、「いつもの人が優先」になっているのが伝わってくる。新しく来た人は座りにくい。私みたいに、黙って立つ人が出る。
あの場で私がもう少し粘ってもよかったのかな。いや、昼休みは短い。それに、店員が「自由席ですので、先に座っているお客さまを優先します」とひと言添えてくれたら、座れたかもしれない。
ホームでひと口。味は同じでも、気分は晴れなかった。次は別の店にしようか、そんなことを考えながら戻った。
さいごに
「常連の定位置」が当たり前になると、初めての人は引き下がりがち。誰も強くは責めにくいからこそ、もやっとしますね。
あなたなら、どんな声かけがあれば気持ちよく座れたと思いますか?次に入る店を選ぶとき、ささやかな基準が増えるのも悪くないのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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