都内の小さなITベンチャーで営業をしていた僕は、部署で一番の若手。数字は出していたけれど、地方出身というだけで小突かれる日々だった。
笑いの輪に混ざれない夜が続き、胸のどこかが冷えたままになっていた。
「席ないよ(笑)田舎者は帰れ」
打ち上げの夜、予約していたはずの居酒屋で、同僚の一人が僕の前に立って言った。「席ないよ(笑) 田舎者は帰れ」。
一瞬、時が止まった。店内には空席がいくつも見えているのに。
「冗談ですよね?」と笑ってみせたけれど、彼は肩をすくめ、「ノリわかんないなら無理すんな」と手で追い払う仕草。
僕は黙ってコートを羽織り、幹事に「会費だけ置いときます」と封筒を渡して店を出た。夜風が頬に刺さる。——ああ、ここではもう息できないな。
「悪ノリだからw」に冷めた朝
翌朝、チームチャットには「昨夜は悪ノリだからw」という軽いメッセージ。既読の海に、謝罪はなかった。
彼は僕のデスクに来て、「で、例の大型3社、俺が持っとくから。担当名、今日中に変えといて」と当然みたいに言った。
——大型3社。僕がゼロから関係をつくった基幹顧客だ。
相手先の担当者は、僕の名前で直接電話をくれる。商談の合間に地元の祭りの話までしてくれる。そこに「笑いのノリ」はいらない。
僕は淡々と日報と議事録を整え、要件定義や過去の紆余曲折を一枚にまとめる癖があった。誰が見ても経緯がわかるように——それはお守りであり、いつでも手放せる準備でもあった。
「じゃ退職します」静かに告げた日
昼休み、僕は人事に退職の意向を伝えた。理由は一言、「業務に集中できない環境なので」。
上司には個別に経緯を話し、引継ぎ期間を三週間に設定。資料はすべて共有フォルダへ、次回訪問の目的と相手の気にしているポイントまで書き込んだ。
夕方、彼がまた来た。「早く担当名変えとけよ。俺がまとめて面倒見っから♪」
僕は手を止めずに答えた。「じゃあ、退職します。引継ぎは資料どおりで。あとはお願いします」
「は? マジで?」
「本日、人事に出しました」
声を荒らげるでもなく、ただ事実だけを告げて仕事に戻る。彼は笑い飛ばすタイミングを逃し、口を開けたまま固まっていた。
「俺が全部やる♪」の末路は自滅
引継ぎ初週、彼は勢いよく顧客へ電話をかけまくったらしい。「僕が新担当です、すぐ発注ください」と。
でも、相手はすぐには乗らない。A社は会議での検討ポイント(セキュリティ要件)を、B社は導入現場のクセ(紙台帳が残っている部署)を、C社は決裁の順番(経理が最後)を、それぞれ丁寧に拾ってきた僕と何十回もすり合わせてきた。
彼はそこを飛ばしてしまった。A社のレビューで不用意に仕様を変え、B社の現場では「それ、要らないですよね?」と笑い、C社には押印前に価格表だけ送って催促——結果、三社とも定例を一旦白紙に。
社内の温度が変わったのは二週間後。数字が目に見えて落ちた。翌月の見込み2割に沈み、上から「何が起きてる?」の連絡が飛ぶ。
僕は最後の週、予定どおり最終訪問に同行だけした。顔つなぎと資料の説明をして、あとは彼に委ねる。帰り道、彼は小声で「お前、変なこと吹き込んだだろ」と睨んできた。
「資料に全部あります」
それだけ。
更新月、A社は稟議見送り、B社は段階導入に縮小、C社は「担当変更に伴い、他社も比較します」と回答。彼はさらに焦って割引を連発。マージンが崩れて、チーム全体の粗利目標も崩れた。
上司は彼を呼び、「まずは約束を守れ」と静かに告げたらしい。僕の退職届を人事が受理した日付、打ち上げの出欠とレシート、チャットの軽口……言い訳は空回りした。
結局、彼は主力案件から外され、社内の“火消し”部署に異動。肩書きはそのままでも、実質は降格。自慢していた「俺が全部やる♪」は、自分で崩した塔だった。
「今は静かな席で息ができる」
僕は月末で会社を去り、少し休んだあと、別のSaaS企業へ。面接では淡々と実績とやり方だけを説明した。
前職の顧客には一切こちらから連絡しない。けれど、数カ月後、A社の担当者から「近況どう?」と私用の番号に連絡が来た。
「今は別の会社です」
「じゃあ、製品が合えばまた相談するね」
それだけで充分だった。僕の席は、ちゃんとここにある。
さいごに
人を雑に扱えば、仕事は静かに離れていく——そんな当たり前を思い出す話でした。
空気で片づけられがちな場でも、痛みを抱えて働く人はいますよね。つらいとき、あなたはどこで線を引きますか?
自分の呼吸を守る選択、してもいいのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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