母の着付けが仕上がる時間に合わせてホテルに着いた。妹の晴れの日。笑顔の練習なんて、いい歳して情けないと思いながら、受付の列に並んだ。妹の婚約者とは顔合わせの機会がなく、今日はじめて会う。
名前を伝えると、受付の女性が名簿をたどって首をかしげた。嫌な予感が、胸の奥でざわついた。
「お名前が…見当たりません」
「新婦の姉です」と説明しても、受付は「申し訳ありません。お名前が…」と同じ言葉を繰り返す。
私はバッグから招待状の封筒と、返信ハガキの控えを出した。出席に丸をつけた面をスマホで撮っておいたのだ。
「こちらで招待は間違いないと思うんですが」
スタッフが奥へ確認に走る。その隙に、ドレス姿の妹が通りがかった。私を見るなり、眉を寄せた。
妹「来ないでって言ったよね」
「ちょっと、なんで来てるの? 来ないでって言ったでしょ」
「言ってない。招待状もらって、返事も出したよ」
「もう席、外したの。彼の親族が増えたから。悪いけど、帰って」
妹は小声で早口に言い、視線は私じゃなく、後ろの親戚の列に向いていた。周りからどう思われているかが大事だった。昔からそればかりだった。私がうまく笑えないと「空気読んで」と刺す。母の前だけ、笑顔でつくろった。
私は一歩引いて、「お母さんにだけ挨拶して帰るよ」と言った。余計な揉め事で今日を壊す気はない。スタッフが戻るのを、ロビーの柱の影で待つことにした。
「欠席に変更したから」と妹
受付の内線が鳴ったのか、スタッフが私の方を見て、困った顔をした。「新婦様からのご連絡で、お姉さまは欠席に変更と。お料理はキャンセルの扱いになってまして…」
「私、そんな連絡してないよ」
「私がしたの。昨日ね」妹が割って入る。「彼の親族の席が足りないの。わかって」
それならそれで、事前に相談してくれればいいのに。ご祝儀袋が、指の中で重く感じた。
「お母さんには?」
「言ってない。余計なこと言わないで」
その時、控室から新郎が出てきて、会場スタッフと何か話していた。ふとこちらを見て、彼の足が止まった。
新郎が私を見て「部長…?」
「……部長?」
思わず笑ってしまった。彼はうちの会社の社員だ。新人研修や評価面談で、私の顔を知っている。部署も違い、私生活の話は出ない。
「えっと、もしかして——」
「はい。新婦の姉です」私は名乗った。私は状況を一言で伝えた。「受付で名前がなくて」
新郎はスタッフに向き直った。「新婦の姉が受付で止められてるみたいです。名簿どうなってますか」
スタッフがファイルを開く。「新婦様からお電話で、こちら『お姉さまは欠席』と。お料理はキャンセルになってまして…」
新郎は妹を呼んだ。「これ、どういうこと?」
妹は目を泳がせた。「だから、その…席が足りなくて。彼の親族が増えたから」
「増えたって何の話? それと、俺には連絡来てない。どうして相談もなく家族を外すの」
私は口を挟まない。今日は彼らの式だ。判断は新郎に任せるのが筋だと思った。
新郎はスタッフに向き直る。「席、一つ戻してください。料理も追加で。費用はこちらで持ちます。間に合いますか」
「はい、予備がありますので大丈夫です。席札もすぐ用意します」
「お願いします」
そして私に頭を下げた。「すみません。こんなことになって」
「部長のせいじゃないです。ありがとうございます」
「席、戻します」妹の謝罪
妹は小さな声で言った。「…ごめん。席、戻すから。写真も一緒に入って」
「お母さんに心配かけたくないなら、それがいい」
言葉はそれだけにした。ここで説教を始めたら、結局同じだ。
席札が印刷され、端のテーブルに私の席が整った。叔父や伯母が「来てたのね」と笑いかける。私は軽く会釈して着席し、目立たないように式を見届けた。
披露宴の中盤、新郎がテーブルに来て小声で言った。「入社式で見た時から、まさか義理の姉になるなんて思いませんでした。今日は本当にすみません」
「仕事と家庭は別。部長は部長で、妹を支えてあげてください」
彼はうなずいた。その会話を斜め後ろで聞いていた妹は、紙ナプキンをいじりながら、何か言いかけてやめた。
「その後は必要最低限で」
式の翌日、妹からメッセージが来た。「昨日はごめん。段取りで焦ってた」
「大丈夫。これからは、必要なことは事前に言って」そう返した。
母には、何も言わなかった。最終的に私が会場にいたので、母は受付でのことを知らない。あの日、母は「姉妹が並んで写真に入ってくれてうれしかった」とだけ言って、アルバムの受け取り日を楽しみにしていたから。
私は仕事に戻った。社内で新郎に会うことは、たぶんほとんどない。それでいい。親族としての距離も、決めた。
妹とは、年に一度、実家で顔を合わせる程度にする。必要な連絡は連絡。境界は境界。それでも困ったときは、手を貸す余地は残しておく。家族は切り捨てるものでも、無限に甘やかす相手でもないから。
さいごに
身内でも、勝手に外すのは違いますよね。席や段取りの都合があるなら、なおさら早めに話せば防げることでした。
式の日に波風を立てたくない気持ち、分かります。だからこそ、当日は言い争わず、新郎と会場スタッフに判断を任せた対応も現実的でした。
家族から突然「帰って」と言われたら、あなたは誰に事実を確認しますか? 相手が焦っているときほど、招待状や連絡記録を示して落ち着いて話したいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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