妻が出産して間もない頃、「ここは自分の出番だ」と思ってベビー用品店へ向かった。育休に入って2週間。妻は帝王切開の傷がまだ痛み、長時間の外出は難しかった。
退院するときはタクシーを利用したが、次の健診からは自家用車で移動する予定だった。そのため、新生児から使えるチャイルドシートを私一人で選びに行くことにした。
まさか店で、「奥さまと一緒に来たほうが」と繰り返し言われるとは思っていなかった。
「奥さまと一緒のほうがいいですよ」
売り場には、いくつものチャイルドシートが並んでいた。車はISOFIXに対応しているので、後部座席に取り付ける予定だった。
ただ、回転式と固定式、使える期間、サイズや操作方法など、実物を見ても分からないことが多い。私は近くにいたスタッフに声をかけた。
「新生児から使えるものを探しているんですが、違いを教えてもらえますか?」
スタッフは何種類かの商品を見ながら、「お父さんお一人ですか?」と聞いた。
「はい。妻は産後なので、今日は来られなくて」
そう答えると、スタッフは少し考えてから言った。
「でしたら、奥さまが外出できるようになってから一緒に来られたほうがいいかもしれませんね。実際に使うお母さまにも操作してもらったほうがいいので」
もちろん、妻も使う予定ではある。ただ、私も使うし、取り付けるのも私だ。
「妻とも相談していて、ある程度候補は絞っています。今日は私が説明を聞いて決めたいんです」
そう伝えた。
聞いても「奥さまにも確認を」
私は候補にしていた二つを指して、「この二つだと、使い勝手はどう違いますか?」と尋ねた。
ところがスタッフは簡単な説明をしたあと、「最終的には奥さまにも実物を見てもらったほうがいいですよ」と繰り返した。
「回転させる操作は、片手でもできますか?」
「それも、お母さまが実際に触ってみたほうが」
「取り付け方はこちらのほうが簡単ですか?」
「ご夫婦で確認していただいたほうが安心ですね」
だんだん、妙な気持ちになってきた。
妻にも確認したほうがいい、という助言自体は分かる。でも私は、「妻に内緒で勝手に買います」と言っているわけではない。
妻は産後で来店できない。だから私が代わりに商品を見て、必要なら写真や情報を持ち帰って相談する。そのために説明を聞きたいだけだった。
「妻が来られない場合は、詳しい説明をしてもらえないということですか?」
そう聞くと、スタッフは少し困ったように笑った。
「そういうわけではないんですけど、こういうものはお母さまが選ばれることが多いので……」
その一言で、引っかかっていた理由が分かった。
安全上の決まりではなく、「チャイルドシートを選ぶのは母親」という前提で話されていたのだ。
「それはお店のルールですか?」
私はもう一度確認した。
「父親一人だと詳しく案内しないというのは、お店のルールですか?」
スタッフは答えに詰まり、「そういう決まりというわけでは……」と言った。
それなら、このまま同じやり取りを続けても仕方がない。
「すみません。責任者の方に確認してもらえますか?」
しばらくして、別のスタッフが来た。私は妻が産後で来店できないこと、自分が商品の説明を聞いて購入したいこと、それでも何度も「奥さまと一緒に」と言われたことを伝えた。
責任者は話を聞くと、「お父さまお一人でも、もちろんご案内できます」と答えた。
「母親が同伴していないと販売できない、という決まりもありません。ご案内の仕方が適切ではありませんでした。申し訳ありません」
それを聞いて、ようやく話が通じた気がした。
父親でも、知りたいことは同じ
その後は、候補の商品について一つずつ説明してもらった。
対応している子どもの身長や体重の範囲、車への取り付け方、回転機能の違い、乗せ降ろしするときの操作などを実物を使って確認した。
私は途中でスマホを取り出し、妻にも写真を送った。
「こっちは回転式で、こっちは少しコンパクトみたい」
そう送ると、妻から「毎日使うなら回転するほうが楽そう」と返ってきた。
結局、その場で一つに決めた。
会計の前、最初に対応したスタッフからも、「お母さまが選ぶものだと思い込んだ案内をしてしまいました。すみませんでした」と声をかけられた。
悪意があったわけではないのだと思う。
でも、「赤ちゃんのことなら母親」という思い込みは、こういうところにも残っているのだと感じた。
家に帰って、自分で取り付けた
翌日、取扱説明書を見ながら車に取り付けた。
製品の説明どおりに固定し、表示を一つずつ確認した。分からないところはメーカーの説明動画も見直した。
取り付けが終わったことを妻に伝えると、「ありがとう。助かった」と笑ってくれた。
その一言で十分だった。
私は特別なことをしたわけではない。
自分の子どもが乗るチャイルドシートを調べて、買って、取り付けただけだ。
父親が一人でベビー用品を選ぶことも、母親が一人で選ぶことも、本来は同じはずだ。
それでも、あの日もし「奥さまと来てください」と言われたまま帰っていたら、妻は体がつらい時期に無理をして店まで来ることになっていたかもしれない。
だから、「それは本当に必要な条件ですか?」と確認してよかったと思っている。
さいごに
悪気のない言葉でも、「これはお母さんの役割」「これはお父さんには分からない」と最初から決めつけられると、少し引っかかることがあります。
育児用品を選ぶのも、病院へ連れていくのも、日々のお世話をするのも、家庭によって誰が担当するかは違います。
「普通はこうだから」ではなく、目の前の人が何を必要としているのかを聞いてもらえるだけで、ずいぶん違うのかもしれません。
もし自分の役割を勝手に決めつけられたら、あなたならその場でどう伝えますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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