夜明け前、ベットに広がった温かい感触で目が覚めた。
「あ、破水だ」——そう思って、心臓がバクバクいっていた。
枕元の夫は画面を伏せたスマホを握りしめ、通知が来るたびに指先が動いていた。
「ちょっと出てくる」と消えた夫
病院へ向かう車の中、私は呼吸を整えながら痛みの波に合わせて目を閉じた。
信号で止まるたび、夫のスマホが震える。ちらっと見えた吹き出しには「今どこ?」。
「誰?」と聞くと、「仕事。ちょっとした連絡」と、目は前を向いたまま。
病院に着くと、私は分娩の準備へ。助産師さんが背中をさすってくれる。
その耳元で、夫が小声で言った。「ちょっと出てくる。30分で戻るから」
「今!? 破水してるのに……?」と私。
「大丈夫、大丈夫。すぐ戻るから。家に忘れ物しただけ」——夫は扉の向こうに消えた。
「今!?破水してるのに」分娩室にひとり
陣痛の間隔はみるみる短くなり、助産師さんの「深呼吸ね、ここ大事よ」という言葉だけが頼り。
私は決めた。「夫の立ち会い、今日は一旦ナシでお願いします。入って来ても通さないでください」
助産師さんは一瞬だけ驚いた顔をして、すぐに頷いた。「分かりました。今はあなたと赤ちゃんが最優先ね」
次の波の合間、私のスマホに家計簿アプリの通知が入った。
『ラウンジ 18,700円 決済』——時刻は、さっき「30分で戻る」と言った直後。続けて『タクシー 決済』の文字。
視界が一瞬カッと明るくなったけれど、すぐに呼吸に戻る。今は私と赤ちゃんの時間だ。
「進みはいいよ、もうすぐ会えるからね」助産師さんの声に背中を押され、私は全身で波を乗り切った。
短い悲鳴と、産声。世界がふっと軽くなる。腕の中の小さな体が、確かな温度で私を現実に留めた。
「領収書ある?」静かに差し出す
落ち着いた頃、夫が分娩室の前に戻ってきたと看護師さんから伝えられた。
髪は乱れ、息を切らし、「いや、仕事でさ、どうしても」と言い訳が先に立つ。
私は赤ちゃんを抱き直し、「助産師さん同席で、少しだけ」と入室を一度だけ許可した。
夫が顔を覗き込んだ瞬間、私は静かに聞いた。「忘れ物、見つかった?」
「う、うん。あと、急な連絡で……」
「領収書、ある?」
夫の目が泳ぐ。
私はスマホを起動し、家計簿アプリの履歴を見せた。『ラウンジ 18,700円 決済』、同時刻帯に並ぶ『タクシー』の電子明細。
「破水から、あなたが『30分で戻る』って言った間。ここじゃなくて、そっちにいたのね」
「面会、今日で打ち切りです◎」
夫は「いや、取引先がそこにいて……」と口ごもる。
「なら、あなたの仕事を尊重するね。私は私の仕事をする」
私は助産師さんのほうを向き、はっきり告げた。「面会、今日で打ち切りです。今後の手続きと連絡は私からで」
「ちょ、待ってくれよ。俺、父親だぞ」と夫。
「父親の最初の席、あなたは自分で外していました。今は赤ちゃんと私を最優先にします」
声を荒げずに言い切ると、部屋の空気が一瞬止まったような気がした。
看護師さんは夫に「今日はお帰りください。お母さんの体調が最優先です」と淡々と伝えた。
夫は「後でまた来る」と言い残したが、受付で面会不可を告げられ、そのまま帰ったと聞いた。
行き先が判明した結果、夫の末路
その夜、夫から「悪かった。焦ってた」とメッセージ。添付はさっきのラウンジの明細で、テーブルチャージまで写っている。
私は「証拠はあるから」とだけ返し、実母にも状況を共有。退院後しばらくは実家で過ごす段取りを整えた。
翌日、病院の相談員さんにも事情を説明。必要な支援と手続き、面会の取り扱いを確認する。
「同居の人が不在でも、サポートはありますよ」その言葉に、胸の奥のこわばりが少しほどけた。
夫からは何度も電話。「もう二度としない」「立ち会いしたかった」と繰り返すけれど、私は返事をしない。
今は、同じ後悔をする余裕はない。赤ちゃんの泣き声が教えてくれる——今、この子を守ること。
その後——静かな生活の立て直し
退院の日、夫は病院には来なかった。
私は赤ちゃんと実家へ。一日のリズムを作り、サポートを借りながら育児をこなす。
家計は私名義の口座に切り替え、必要経費だけを明確に請求。連絡はメッセージで要件のみ、面会は事前相談のうえ必要時に限定。
「立ち会い」は無くても、「立ち向かい」はできる。こうやって、私の暮らしは始まった。
あの日、戻ってきた夫に私が言った一言。「面会、今日で打ち切りです」。
それは、私と赤ちゃんを守るための言葉だった。
さいごに
大事な場面で置いていかれたとき、言い訳より先に自分と子どもを守る線引きが要りますね。
胸がざわついた方も多いはず。しんどいときほど、誰を最優先にしますか?
あなたなら、どこに線を引きますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント