帰省のたびに使う新幹線は、いつも早めに指定席を取る。今回も出発2週間前にネットで予約して、3号車の窓側を確保していた。
自由席は激混みだとわかっていたから、指定席にしておいて良かったと思っていた。座席の番号を確認しながら通路を進んで、自分の席にたどり着くまでは。
「子どもが座ってるんで」
私の指定席には、5歳くらいの女の子と、まだ3歳にもなっていなさそうな男の子が並んで座っていた。
その間の席に母親らしき人が座っていて、目を閉じたまま動かない。
「すみません、そこ、私の指定席なんですけど」
声をかけると、母親は薄目を開けて私を見た。
「子どもが座ってるんで」
それだけ言って、また目を閉じた。
チケットを見せて、私の席は隣の窓側だと伝えても返事はない。母親の券をよく見ると、通路側の1席分しか印字されていなかった。窓側の分は買っていないのに、子どもたちをそのまま座らせていたようだった。
質問に答える気も、席を空ける気もなさそうだった。会話にもならない。
乗務員「お客様同士でお願いします」
車内をひととおり見回しても、他に座れそうな場所はなかった。
しばらく突っ立ったまま待っていると、検札で通りかかった車掌さんに声をかけることができた。指定席券を見せて、状況を説明する。
車掌さんは母親の券を確認して、「こちらのお子さん2人分は、席の予約がないですね」と母親に伝えた。
「じゃあ2つ先の駅までだけ。もうすぐ着くので」
母親はそう言ったきり、子どもを立たせようとしない。車掌さんは私の方を向いて、申し訳なさそうな顔で言った。
「今、満席に近くて、お子さんたちを移していただく先もすぐには見つからないんです。まずはお客様同士でお話しいただけますか。よろしければ、自由席の空いている車両もご案内できます」
もう一度、母親に強く言う気力は残っていなかった。相手は目を閉じたままだし、子どもたちを立たせるつもりもなさそうだ。
自分が悪くないのに、大きな荷物を持って自由席まで移動するのも、正直納得がいかなかった。
譲ってもらえた席、でも
通路で立ったままどうしようか考えていたら、近くの席のご年配の女性が声をかけてくれた。
「次の駅で降りるので、ここどうぞ」
ありがたく座らせてもらい、その方は次の駅で本当に降りていった。例の親子も2つ先の駅で降りていった。
結局、座席自体には座れた。移動するのも面倒だったので、そのまま譲ってもらった席に座った。荷物を移動する手間もなく、行き先まで無事に着けた。
でも、モヤモヤは消えなかった。
自分がお金を払って取った席に、最後まで座れなかったこと。母親が一言も謝らなかったこと。車掌さんも「お客様同士で」と言ったきり、母親の券を確認した後は強く言ってくれなかったこと。
指定席を買ったのに座れなかったのは私の方なのに、結局は見知らぬ人の親切のおかげで席に座れた。それだけが残った。
母親がなぜ子どもの分だけ座らせたのか、次の駅までのつもりだったのかは、最後まで聞けないままだった。
さいごに
指定席という約束ごとがあっても、いざという場面では「お客様同士で」の一言で当事者同士に任されてしまうことがあるんですね。ちゃんと予約していた側が、結局は誰かの厚意頼みになってしまうのは、なんとも言えない気持ちになります。もし自分がその場に居合わせたら、どう声をかけるだろうと、ふと考えてしまいます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント