出張の帰り道は、いつも新幹線の窓側席に座るのが小さな楽しみだった。ところがその日は、乗り込んだ瞬間から嫌な予感がした。
「すぐ降りますから」と笑顔で言われたけど
車両に入ると、私が予約した窓側の席に、見知らぬ女性が堂々と腰掛けていた。
通路側にも、隣の列にも、同じグループらしき3人が大きなキャリーバッグを座席脇に広げ、にぎやかに話し込んでいる。
「あの、そこ私の席なんですが」
声をかけると、女性はにこりと笑って言った。
「あ、すぐ降りますから、少しだけ待ってもらえますか?」
——”少しだけ”って、どれくらい?
次の停車駅まであと20分はある。私は手元のチケットをもう一度確認して、もう一度、はっきり伝えた。
「指定席なので、今すぐ移動していただけますか」
「空いてたから座っただけじゃないですか」
それでも4人は動かなかった。
「自由席が混んでたんです」「荷物が多くて」「空いてたから座っただけ」
言い訳がどんどん出てくる。悪びれる様子は一切ない。
通路に立ったまま押し問答を続けること、おそらく3〜4分。後ろから来た乗客が困り顔で立ち止まり、私の後ろに渋滞ができ始めた。
——このままじゃらちが明かない。
私は深呼吸を一つして、静かに決めた。車掌さんを呼ぼう、と。
車掌さんを呼ぶと、信じられない主張が出てきた
通路を少し戻り、車掌さんを見つけて状況を説明した。
車掌さんはすぐに一緒に来てくれて、グループに穏やかに声をかけた。
「お客さま、こちらの方がご予約された指定席になっておりますので」
すると、グループのリーダー格らしき男性が、突然こう言い放った。
「いや、このお客さんが『どうぞ使っていいですよ』って言ったんで、座らせてもらってるんです」
——は?
私は耳を疑った。会話したのはついさっき。そんなことを言った覚えは一切ない。
車掌さんも、一瞬だけ表情を変えた。
「チケットを拝見できますか」の一言で空気が固まった
車掌さんは落ち着いた声で言った。
「では、皆さまの乗車券と指定席券を拝見できますか」
静寂。
4人は顔を見合わせた。
ごそごそとスマホや財布を探し始めたが、出てきたのは自由席の切符だけ。当然だ、この席を取っているのは私だけなのだから。
「こちらのお客さまの指定席券と一致しております。皆さまにはお移りいただく必要がございます」
車掌さんがそう告げた瞬間、4人の顔からすっと色が引いた。
「……わかりました」
リーダー格の男性がぼそりとつぶやき、グループは無言でキャリーバッグをまとめ始めた。
ようやく座れた窓側の席
4人が去ったあと、車掌さんは私に向かって「ご不便をおかけしました」と頭を下げてくれた。
「いえ、来ていただいてよかったです。ありがとうございました」
席に腰を下ろし、窓の外に流れる景色を眺めながら、ようやく肩の力が抜けた。
——大声を上げなくてよかった。ちゃんと正規の手順で動いてよかった。
乗車券という動かしようのない事実の前では、どんな言い訳も通らない。そのことを、静かに、でも鮮やかに証明してもらえた気がした。
残りの乗車時間は、誰にも邪魔されずに缶コーヒーを飲んで過ごした。
さいごに
正当な権利を主張しているだけなのに、なぜかこちらが肩身の狭い思いをしてしまう——そんな理不尽な場面、誰にでも一度はあるのではないでしょうか。声を荒げず、正規の窓口にそっと頼ったことで静かに解決できたこの話、あなたならどうしていましたか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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