休みの朝は、子どもの寝顔に合わせてゆっくり起きるのが小さな楽しみ。なのに、その日は玄関のチャイムがやけに早く鳴った。スマホには同じ園で近所のママ友からのメッセージ。
「今、玄関前。朝6時半に置いてくね♪」
数日前、園の門の前で私が「近いし、困ったら声かけてね」と軽く言ったことがあった。社交辞令のつもりが、彼女は“置いていっていい”の合図みたいに受け取ったのかもしれない。
「朝6時半に置いてくね♪」の玄関先で
ドアの向こうで小さな足音。慌てて開けると、パジャマの上にジャンパーを着た子が、鞄を握って立っていた。彼女は顔だけのぞかせて、「ごめん、ほんの少しだけ。今日だけ」と言い、走って行った。
寒い早朝に玄関で立たせるわけにいかない。私は「とりあえず入って。次は必ず前日に連絡して」と声をかけ、その子の靴を脱がせ、牛乳をコップに注ぎ、テレビをつけた。近所だし、うちの子とも顔なじみ。1時間ほどで彼女は戻り、「助かった」と連れて帰った。その場で「今回は大丈夫だけど、次からは前日までに」と伝えると、「うん、わかってる」と笑っていた。
「今日だけ」が続く違和感
けれど翌週の休みの朝も、またその次も。連絡はいつも当日の早朝で、「今日だけ」「5分だけ」「起きてる?」の三点セット。ピンポンが鳴り、子どもが立っていて、彼女はもう小走りで去っている。私がメッセージに気づくのは、扉を開けた後だった。
理由を聞くと、「早朝パートが増えてさ。助け合いでしょ?」と軽く返された。思い返せば、園のバザー準備で荷物を一時置きさせてもらったり、雨の日に車を出してもらったり、細かい貸し借りはあった。でも、人の子を朝一で預かるのは別の話だ。こちらにも朝の支度や予定がある。
震える声で泣かれて「もう預かれない」
決定的だったのは5度目の朝。玄関でその子の目が泳ぎ、唇が震えた。「ママ、どこ?」と絞り出す声。暗い時間に玄関でバイバイされたのが怖かった、とその子は小さく言った。
私は抱き上げてリビングへ連れていき、毛布をかけてから、すぐ彼女に電話をかけた。「今、泣いてる。今日は預かれない。戻ってきて」
「え、ほんの少しなのに?」と戸惑う声に、「この子が不安がってる。これはもう終わりにしよう。今日のことは受けるけど、あとで話す時間を作って」と言い切った。彼女は「わかった、すぐ行く」と言い、10分ほどで迎えに来た。肩で息をして「ごめん、助かった」と頭を下げた。まずは子どもの不安をなくす。それだけに集中した。
「うちは保育園じゃないので」と伝えた
昼過ぎ、夫に事情を話すと、「言おう。前もって相談ならまだしも、当日は違うし、そもそも早朝はおかしいよ」と背中を押された。春に配られた「子育て便利帳」を使う日が来るかもと冷蔵庫に貼ってあったのを外し、スマホでも市の一時預かりページを開いた。
夕方、近所の公園で会う。子どもたちは砂場、私たちはベンチ。
私は最初に、今朝泣いていたことを伝えた。「あの顔を見て、もう預かれないと思った。うちは保育園じゃないので、前日までに相談して。直前は受けられない。無理な時は断る」
そう言って、資料を見せる。「早朝の一時預かり、予約すれば使えるところがあるよ。ここは7時からで、事前登録が必要。電話番号はこれ」
「じゃあ、どうしたら…」彼女の反応
彼女はうつむき、「ごめん。本当に焦ってた。最近、早朝パートが増えて、園の開く時間と合わなくて。夫も朝方までの仕事で頼れなくて」と事情を話した。
「前夜にシフトが出ても、当日の朝5時に欠員の連絡が来ることがあって…そこで『今日だけ』に頼ってしまった。前にあなたが『困ったら言って』って言ってくれたから、つい甘えた。お願いの仕方が違ってたよね」
私は頷いた。「事情があるのはわかる。でも、私の家の都合もあるし、何より子どもが不安になる。だから、前日までに相談。受けられない日は断る。もし急なら、ここに連絡して」
スマホの画面を一緒に見ながら、登録の仕方、必要な持ち物、朝の受け入れ時間を確認した。彼女はメモを取り、「本当にありがとう。もうほぼ無断な状態では置いていかない」と何度も言った。
その後、早朝のチャイムは鳴らない
それから、早朝の無断チャイムは一度もない。前日に「明日、パートで…」と連絡が来たことはあるが、その日は私が子の通院で朝から出ると伝えると、「わかった。一時預かりに電話してみる」と返ってきた。
後日、「登録できたよ。朝の枠も空いてた」と報告があり、彼女は少しほっとした顔。園の帰り道で会えば、「この前はありがとう」と笑って手を振る。距離は保ちつつ、挨拶はできる関係だ。
我が家の朝は、家族のリズムに戻った。チャイムの音でびくっとすることもない。決まりをはっきり伝えただけで、生活はこんなに変わるのだと思った。
さいごに
「今日だけ」が続くと、どちらにも負担が積もります。子どもの不安が合図になって、やめどきを決められたのが良かったのかもしれません。
前もって伝えることや、断る・断られる前提を言葉にしておくと楽になります。あなたなら、どんなふうに伝えますか? 無理のない助け合い、考えてみませんか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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