一泊二日のママ友旅行、運転はいつも私の役目だった。
子ども同士が同じ保育園の年長クラスで、毎年恒例になっているこの旅行も三回目。今年は私の車で行こうと決まったときから、なんとなく胸のあたりがざわついていた。
「高速代と駐車場代はあなた持ちで」
宿に着いて夕食も終わり、部屋でお金の精算をする流れになった。
幹事役の萌香さんがスマホの電卓を出しながら言った。
「ガソリン代だけ4人で均等割ね。高速代と駐車場代は、運転してくれたあなたが出すってことで」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「え、高速代も駐車場代も交通費でしょ。それも込みで割るって決めてなかったっけ」
そう聞き返すと、萌香さんは電卓を打つ手を止めずに続けた。
「そうだっけ? でも運転してもらってるし、ガソリン以外はお願いしてもいいかなって」
隣で玲奈さんが「え?なんで?」と首をかしげ、由美さんは黙ってお菓子を食べていた。
出発前のグループチャットで、たしか交通費は合計して4人で割ると書いた記憶がある。でもその場でスマホを開くのも角が立つ気がして、私はいったん「そうなんだ」とだけ返した。
「今日の食事代も別々でいいよね」
夕食のときも似たようなことがあった。
宴会プランの追加オーダーで頼んだ地酒や刺身の盛り合わせを、萌香さんが「せっかくだから」と率先して頼んでいたのに、会計になると「これは飲んだ人だけで割ろう」と言い出した。
飲んでいたのは萌香さんと玲奈さんで、私と由美さんはアルコールが苦手で頼んでいない。結局その分はきっちり2人で割ってもらえたので、そこは特に問題なかった。
でも思い返すと、萌香さんはいつも自分が損しない形に話を持っていく。だから余計に、交通費だけ私にまとめて背負わせようとする言い方が引っかかった。
運転を私が引き受けたのは、みんなで相談して決めたことだ。誰かに強いられたわけでも、代わりに何かを免除してもらう約束をしたわけでもない。
部屋に戻ってから、出発前のグループチャットを開いてみた。
「交通費(ガソリン・高速・駐車場)は合計して4人で割る」
そう自分で打った文字が、ちゃんと残っていた。日付は出発の1週間前。既読も4人分ついている。
「ETCと給油の明細、全部ここにあるよ」
もう一度お金の話になったとき、私はスマホの画面をみんなに向けた。
「これ、出発前のチャット。交通費は合計して4人で割るって書いてあるよね」
萌香さんが「あ、それは」と口ごもる。私は続けて、財布に入れていたレシートとETCの利用履歴、駐車場代を払ったカードの明細を並べた。
「ガソリン代がここ、高速代がここ、駐車場代がここ。全部足すと2万4千円。これを4人で割ると、ひとり6千円だね」
玲奈さんがスマホの電卓を私の横から覗き込んで、「あ、ほんとだ。じゃあこの割り方でいいんじゃない」と言った。由美さんもうなずいて、「最初にそう決めてたもんね」と付け加えた。
萌香さんはしばらく黙っていたけれど、結局「じゃあその金額で」と、財布から6千円を出した。
私が先に立て替えていた分との差額を、その場で3人からきっちり受け取って、その夜のうちに精算は終わった。
「私、今度は自分の車で行こうかな」
翌朝の朝食のとき、萌香さんは特に何も言わず、いつも通りみんなに話しかけていた。
ただ、車に戻るときにガソリンスタンドに寄ったら、「私、今度は自分の車で行こうかな」とぽつりとつぶやいた。運転を人任せにして得しようとしたことがばれたあとでは、もう頼みにくくなったのかもしれない。
帰りの車の中で、玲奈さんが助手席から「あのとき、ちゃんとチャットで決めてたのにね」と笑った。
「次からは私が精算係やろうか」と由美さんも言ってくれて、肩の荷が下りた気がした。
由美さんが精算係になった
次の旅行から、幹事は由美さんに交代した。
お金の話は毎回、出発前にチャットで細かく決めて、当日は誰も揉めることなく精算が済むようになった。
萌香さんも変わらず参加しているけれど、あの日以来、交通費のことで何かを言い出すことはなくなった。
さいごに
決めたはずのルールを、あとから自分に都合よく言い換える人はどこにでもいます。声を荒げなくても、その場に残っている記録がちゃんと味方をしてくれることがあります。理不尽な言い分に、モヤモヤしながらも黙ってしまった経験、ある方も多いのではないでしょうか。次に同じような場面に出会ったら、スマホの履歴を見返してみてもいいかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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