出張帰りの特急。上着を腕にかけ、キャリーを引いて乗り込んだ。
通路の先で足が止まる。私の席番号「12C」の座面に、大きなリュックがどんと置かれていた。
隣の通路側には、キャップをかぶった男性が脚を投げ出して座っている。私が近づくと、こちらを向いたが、すぐスマホへ視線を戻した。
「そこ、荷物置いてたから」
「すみません、12Cは私の指定席です。荷物どけてもらえますか」
男性が顔を上げた。
「そこ、荷物置いてたから。友だちがさっきまでいて、すぐ戻るし」
戻る? 座席番号は変わるわけではない。
「指定席なので、私がここに座ります。戻られても、ここは私の席です」
私がキャリーの持ち手を握り直すと、男性は肩をすくめて椅子に沈んだ。リュックは座面の真ん中を占領したまま。
男性「少し待てば空くって」
「少し待てば空くって。次の駅で降りるからさ。立ってれば?」
男性は舌打ち混じりに笑い、指で自分の通路側の席をトントンと叩いた。
「ほら、ここ座れば? そこは荷物置き場みたいなもんだし」
席を交換する気も、荷物をどける気もないらしい。通路にも数人が通るのを待っていて、私の後ろで年配の女性が立ち止まって様子を見ている。
私はスマホの予約画面を開いた。12C、区間、時刻。画面の明かりが数字をはっきり映す。
「私はこの席を買っています。荷物は床に置いてください」
男性は眉を寄せた。
「強情だな。じゃあ乗務員呼べば?」
私「乗務員さん、呼びます」
「呼びますね」
私はキャリーを引いてデッキへ出た。ワゴン販売のスタッフに「席の件でお願いします」と伝える。少しして、制服の乗務員が一緒に戻ってきた。
「お待たせしました。どうされましたか」
私は予約画面を見せて状況を説明する。乗務員はうなずき、男性のほうへ体を向けた。
乗務員「指定券、ありますか」
「こちらのお客様が12Cをご予約です。お客様は指定券をお持ちですか」
男性はポケットを探り、しわの寄ったきっぷを出した。
「これ」
乗務員が目を通す。
「こちらは乗車券と特急券ですが、座席の指定はありません。自由席のご利用です」
男性は口ごもる。
「でも、さっきからここ座ってたし。すぐ降りるし」
「荷物で席を確保することはできませんし、そもそも指定席券を購入されていないお客様は座るべきではありません」
乗務員の言葉に、男性はリュックを乱暴につかみ、席を立ち上がった。
乗務員「では差額を精算します」
「今お座りのお席ですが、空きがございました。ご希望でしたら今から指定席に変更できます。差額はこちらです」
男性は短く息を吐き、財布を出して小銭とカードを探し、しばらく迷ってからきっぷを差し出した。
「じゃあ、払うよ」
手続きが終わると、乗務員は私に向き直った。
「お待たせしました。12Bにお座りください。何かあればすぐお知らせください」
後ろにいた年配の女性と目が合い、会釈を交わす。近くのビジネスマンがノートPCを閉じ、通路をあけてくれた。
ようやく座れた帰り道
私はキャリーを足元に収め、腰を下ろした。固まっていた肩の力が抜ける。
充電ケーブルを差し、駅到着の10分前にアラームを設定。窓の外は暮れかけの景色で、町の灯りがぽつぽつと点き始めている。
ワゴンの女性が通りかかったので温かいお茶を1本頼み、「先ほどはありがとうございました」と伝えた。彼女は「いえいえ、よくあることなんです」と笑った。
隣の男性は先ほどの余裕が消え、背もたれに浅くもたれている。私は視線を向けず、イヤホンを耳に入れた。到着のアナウンスが流れるまで、目を閉じて呼吸を整えた。
停車案内が入る。お茶のボトルをバッグにしまい、立ち上がる。近くを通った乗務員に「助かりました」と伝えると、「お気をつけて」と返ってきた。
さいごに
指定席に荷物を置かれても、やることははっきりしていました。旅先で理不尽に当たると、心がくたびれますよね。迷ったら近くの乗務員さんに声をかける。あなたなら、同じ場面でどう動きますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント