10年以上、同じ美容院で同じ人に切ってもらっている。安心できる場所のはずなのに、その日は鏡越しにふいに寂しさが顔を出した。
「お孫さん、何歳?」が刺さった日
土曜の午後。シャンプーから席に戻ると、隣の会話が耳に入った。
「お孫さん、何歳になりました? あら、もうそんなに! かわいい〜」
担当の美咲さん(仮名)が、60代くらいの女性とスマホをのぞき込みながら弾む声で笑っている。
肩の力が抜けたあの笑顔、私に向けられたことはあまりない気がする。
そう思った瞬間、目の奥が少しだけ熱くなった。
私だけ会話が少ない?と思った理由
思い返すと、美咲さんと楽しそうに世間話をしているお客さんの姿はよく目にしていた。
孫の写真を見ながら「大きくなりましたね」と盛り上がったり、「発表会、楽しみですね。次はその前に整えます?」と予定を気にかけたり。
私への対応は、丁寧だけれど必要最小限だった。
「いつもと同じでよろしいですか」
施術が終われば、
「仕上がりました。後ろも確認してくださいね」
それで会話はほとんど終わる。
不満というほどではない。
けれど、10年以上通っているのに、お互いのことをほとんど知らない。そのことに、その日初めて気づいた。
私にも子どもはいる。けれど、もう家を出て何年かたち、こちらから家族の話をすることも少なくなっていた。
美咲さんが私を避けているわけではないのかもしれない。それでも、ほかのお客さんとの楽しそうな会話を見ていると、「私とは話したくないのかな」と少し寂しくなった。
怒りじゃないと分かった瞬間
鏡の中の自分は、作り笑いが下手だ。
美咲さんに腹を立てているのだろうか、と考えてみた。
でも、少し違った。
子どもが巣立って数年。夫と二人の暮らしは穏やかで、特に大きな不満はない。
ただ、「最近どう?」と肩の力を抜いて話せる相手が、以前より少なくなっていた。
美容院にも、髪を整えるだけではなく、ほんの少し誰かと話す時間を求めていたのかもしれない。
美咲さんに冷たくされたわけではない。
私はただ、もう少し雑談をしてみたかったのだ。
そう言葉にできた途端、気持ちが少し落ち着いた。
次は私から話してみる
相手を責めるつもりはない。でも、自分の気持ちをなかったことにもしたくない。
会計の前、次回予約の話になったとき、私は思い切ってこちらから話題を出してみた。
「最近、庭に花を植え始めたんです」
「あら、素敵。今は何を?」
美咲さんが目線を上げ、笑って聞き返してくれた。
好きな花の名前をいくつか挙げる。
「それ、春になったらきれいでしょうね」
短い会話だった。
でも店を出る頃には、来たときより気分が少し明るくなっていた。
もしかすると、美咲さんも、私が静かに過ごしたい人だと思っていただけなのかもしれない。
次は何か話したいことがあったら、こちらから一つ話してみよう。
そう思いながら帰った。
さいごに
ほかの人に向けられた笑顔を見て、なぜか寂しくなることがあります。
でも、その引っかかりの奥には、相手への不満ではなく、自分でも気づいていなかった「誰かと少し話したい」という気持ちが隠れていることもあるのかもしれません。
相手を責める前に、自分から小さく声をかけてみる。そんな一歩で関係が少し変わることもありますよね。
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※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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