朝、園門の前で上着のチャックを上げ、子どもに手を振る。そこへ、いつも同じ時間に来るあの人が視界に入る。私を見ると、にこっと笑ってこちらに近づいてくる。
今日も何か聞かれるな、と嫌な予感がした。
「旦那さん、何してる人?」門前で
「で、旦那さん何してる人?」
入園して間もない頃に最初に聞かれた。私は「会社員です」とだけ答えた。すると彼女は「へぇ、普通の? うちはね、いろいろあるから」と、わざとらしく濁す。あとで別のママに向かって「うちは上のほうよ」と胸を張っていた。
朝の門はバタバタしているのに、肩書きの話だけは欠かさない。私は笑って受け流した。正直、夫の職業なんて、ここで披露する話でもない。
「役員席はこっち」格付けランチ
クラスのランチ会でも、席を仕切るのはだいたい彼女だ。「役員席はこっち。稼ぐ家ゾーンは真ん中。あなたは端でいいよ」
私は苦笑いでお皿を運んだ。端なら子ども用の椅子も置きやすいし、静かに食べられる。そう思うことにした。
でも、会うたびに夫の肩書きや年収の話を振られるのはさすがにしんどい。「ボーナス、いくら出た?」と平気で聞かれる。私は「まあまあですね」と曖昧に返す。周りのママたちも視線を泳がせるだけで、誰も止めない。面倒を避けたいのは、私も同じだった。
「普通の会社でしょ?」と笑って押しつけ
秋の行事前、係決めの集まり。救護係をどうするかという話題になったとき、彼女がこちらを見て口角を上げた。
「救護は詳しい人がいいよね? ほら、あなたのところは普通の会社でしょ? 忙しくないなら、できるよね?」
またこれか、と思った。係はみんなで支えるもの。肩書きで押しつけるのは違う。
私は手を挙げた。「私、救護係をやります」
少しざわめいた空気の中で、言葉を足す準備をした。
私「夫は救急の医師です。当日は当直で」
「夫は市立病院の救急の医師です。当日は当直で来られませんが、事前に内容を相談して、必要な備品と手順を確認しておきます。先生、名簿の緊急連絡先も一緒にチェックさせてもらえますか」
部屋の隅でメモを取っていた先生が顔を上げて「助かります」とうなずいた。近くにいたママが「心強い。ありがとう」と笑う。
彼女は手帳を握ったまま黙り、ページをめくる指が止まった。私の顔から配布資料へ視線を移し、以降は係の話に戻った。
私は誰かを下げたいわけじゃない。ただ、係の話に夫の肩書きを持ち出して笑う空気は違う。だから、必要な情報だけを出した。
「分担は相談で」丸投げは受けない
会が終わる頃、彼女が近づいてきた。「へぇ、救急なの。知らなかった。じゃあ救護は任せるね」
私は「わかりました。分担は相談しましょう」と返した。先生から名簿のコピーと備品リストを受け取り、連絡方法をその場で決めた。応急手当の冊子の該当ページに付箋を貼り、グループに「擦り傷・打撲の基本、共有しました。役割は当日動きやすいように表にします」と送った。
連絡網でも、彼女は茶化しを入れなくなった。短いスタンプと必要な返事だけ。露骨な格付け発言は消えた。
「ここ空いてます?」先に座ることにした
その後、門前の会話は天気や子どもの話に変わった。ランチ会も、席を勝手に仕切られる前に「ここ空いてます?」と自分で座る。周りのママたちも「今日はこの辺でまとまろっか」と自然に動いてくれる。肩書きの並べ替えに乗らなければ、ごく普通のランチ会になる。
「手当てお願い」行事本番は落ち着いて進行
行事本番。救護スペースには先生とボランティアのママが集まってくれた。擦り傷の手当て、氷嚢の用意、水分補給の声かけ。事前の表どおりに回った。途中で先生が「名簿の緊急連絡、確認済みだから安心だね」と言い、手順書を指さした。
終盤、ボールを使った競技で転んだ子が膝をすりむいた。消毒とガーゼ、保護者への連絡。慌てる声は出なかった。終わってから何人ものママに「助かった」「ありがとう」と声をかけられ、私も「こちらこそ」と頭を下げた。
彼女はというと、会場の片付けで黙って椅子を運んでいた。目が合うと「お疲れさま」とだけ言って、別のテーブルに向かった。
ほどよい距離で、用事は用事として
行事のあとも、彼女とは挨拶だけ。私は彼女を避けてはいない。ただ、肩書きで人を並べる遊びに付き合わない。園での用事は用事として、必要なことは短くはっきり伝える。それで十分に回ると分かった。
さいごに
肩書きで人を測られると、つい構えたくなりますよね。場に関係ある事実だけを出すと、余計な駆け引きは弱まります。似た経験、ありませんか?
必要な場面と相手にだけ、短く要点を伝える。あなたなら、どこで何を伝えますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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