わたしは、商店街で小さなビストロをやっている。昼は近所の常連、夜は予約でゆっくり。
開店当初から兄の妻、私にとっての義姉が顔を出してくれて、ありがたかった。
ただ、「家族なんだし」の一言が混じるたび、胸のどこかに小さな引っかかりが残った。
「親族ならタダでしょ?」と笑う夜
ある金曜の夜、義姉が知人を5人連れて来た。合計6名。予約名は義姉で、コースとおすすめ肉、ボトル2本、デザートも全員分。
手は止めず、厨房とフロアを往復。皿が気持ちよく空いていき、テーブルは盛り上がっていた。
閉店準備に入り、私は伝票を用意してレジへ。義姉が近づいてきて、いたずらっぽく笑う。
「親族なんだから、今日はタダでいいでしょ♡」
「宣伝になるでしょ?」の押し
「申し訳ないけど、うちは一律でお会計をいただいてるから」
そう伝えると、義姉は肩をすくめた。
「かたいなぁ。私たち、SNSに載せてあげるよ? 宣伝になるでしょ、ねぇみんな」
友人たちは顔を見合わせ、気まずそうに笑う人も。ホール担当が困って私を見る。
「宣伝はありがたいです。でも会計は会計でお願いします」
「えー、家族でしょ? そういうの融通きかせるのが付き合いってものじゃない?」
この言い方、何度も聞いてきた。私は伝票を取り直し、数字と注文票を指で示した。
「6名分お会計です」と伝票を
「本日のご利用、6名様でこちらです。代表の方はどなたですか?」
義姉は笑顔を保ちながら、レジ前で視線を落とす。
「今日はツケでいいでしょ。どうせ親族だし」
「ツケはお受けしていません。もし今日まとまらないようでしたら、代表の方のお名前とご連絡先をお願いします」
予約カードと注文票、ボトルの本数、入店とラストオーダーの時刻まで、必要なものを伝える。
「…じゃ、今日は立て替えておいて。あとで兄に言っとくから」
「ご家族に負担がいく形はできかねます。こちらでお願いします」
義姉は隣の友人に小声で何か言い、テーブルもざわつく。結局この夜は「後日払う」で引き取り、代表として義姉の連絡先を受け取った。時刻と内容をメモに残し、閉店の鍵を回した。
夜、兄の電話「店は店だ」
レジ締めの後、兄に短く事情を伝えた。家の中で変な伝わり方をするくらいなら、私から言ったほうがいい。
電話越しに、兄がひと呼吸おいて言う。
「分かった。俺から話す。店はお前の仕事だ。俺の妻が甘える口実に使っていい場所じゃない」
それだけで十分だった。深夜、義姉から「明日、行く」とだけメッセージが届いた。
翌朝のドアベルと「失礼しました」
開店準備の最中、ドアベルが鳴る。義姉が一人で立っていた。
「昨日はごめんなさい」
小さめの声でそう言って、頭を下げる。私はレジ横に昨日の伝票を出した。
義姉は財布から現金を出し、数えながら私の目を見る。
「全部払う。友だちにも、それぞれ連絡する」
「ありがとうございます。次回からは予約の時に代表と支払い方法を決めてください。コースは前払いもできます」
義姉は頷き、小さな紙袋を差し出した。
「これ、前にあなたが好きって言ってた焼き菓子。気持ちだから受け取って」
断ることもよぎったけれど、今日は受け取る日だと判断した。
その後、予約は一名義ずつ
それからの義姉は変わった。友人と来るときは、事前にコースを決め、代表を一人にして、会計はさっと終わらせる。
店の入口には「代表のお名前と支払い方法の確認をしています」と小さな札を出した。常連さんにも分かりやすくなり、トラブルの芽がつぶせる。
たまに一人でランチに来ては、厨房を覗いて「この前のソース、どうやってるの?」と他愛ない話。兄からも「迷惑かけた。何かあったら直接言って」と短いメッセージが届いた。
新しい人を連れてきた義姉が、会計時にさらりと言う。
「ここ、家族がやってるみせだけど、お金はしっかり払うんだ。そのくらいおいお店だから」
その一言に、肩の力が抜けた。
さいごに
「家族だから」で頼まれると、断りづらいもの。けれど仕事の場はルールを先に伝えるだけで、もめごとが減ります。
身内のひと声に救われる瞬間もありますよね。反対に言いにくい時も。
あなたなら、どこからをお願いではなく「お金の話」にしますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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