社内チャットは静かなまま、Sの席だけが空いたままだった。内線は鳴り続け、私のメモ欄はどんどん埋まっていく。昼すぎ、ようやくSから「今日お休みで」の一文。受話器を肩に挟みながら、私は顧客に事情を伝え続けた。
「今日お休みで」既読は夕方
同じ部署の同僚Sは、担当案件も問い合わせも多い人だ。なのに、朝の定時を過ぎても姿がない日が目立ち始めた。
私はもう一人のメンバーとSの窓口を受ける。午前中だけで、進捗確認の電話が4本、納期相談が2件、差し替え依頼が3件。S宛ての社内チャットは既読がつかないまま増えていく。
昼すぎ、Sから「今日は休みます」とだけ届く。私は電話口で「急で申し訳ありません。担当変更で承ります」と頭を下げ、社内の担当表を開いて割り振りをやり直す。午前に受けた依頼の多くは、結局その日の夜に家で片づけた。
「在宅でやってます」って何を?
翌週、Sは出社せずに「在宅でやってます」と送ってきた。ところが、共有の資料が進んでいる様子がない。A社からの「見積の差し替えお願いします」に返信しておらず、B社の「今日中に可否だけでも」のメールも無視しているようだ。
私はSに回していた依頼の転送履歴と、自分が合間に送ったフォロー返信をプリントした。社内チャットのタイムラインには、Sが既読をつけた時刻が残っているが、肝心の顧客対応は動いていない。
上司がSに声をかけた。「在宅なら、今日やった分を簡単でいいから共有して」。Sは「進めてます。VPNつないでます」と言い切る。私はそこで一つだけ聞いた。「じゃあ、A社への返信、いつ出します?」—「夕方までに」。その日の夜になっても、A社からの確認は来なかった。
上司「接続、ゼロって来てる」
数日後、上司がSを会議室に呼んだ。私は引き継ぎ前提で同席するよう言われ、案件ごとの整理メモを持って入った。
上司はノートPCを開き、受信箱の一通を指さした。「情シスから。『当該日時のVPN接続はゼロです』って」。
Sは「家のWi-Fiが不安定で…」と視線を泳がせる。上司はさらに続けた。「それは一度じゃない。『在宅でやってます』と送っていた日も含まれている」
私は机にメモを置いた。Sの担当案件ごとの未処理一覧、顧客からの再問い合わせの時刻、私が代わりに返した履歴。新たに増やしたものじゃない。届いていた連絡と、こちらで対応した記録だけだ。
上司はSに言った。「顧客対応は止められない。担当を替える」
同僚「担当外れますか」小さな声
Sは椅子の背にもたれたまま、声を落とした。「担当外れますか」
上司は短くうなずいた。「今日付けでA社とB社は外す。社内の整理タスクに回ってくれ。出社して進めること。勤怠は規定どおり申請すること」
Sは「すみません」とだけ言った。上司はそのまま次の段取りを決めた。A社とB社への連絡は私と先輩で分担する。名刺データの担当表をその場で差し替え、顧客向けの挨拶文もテンプレに沿って作り、私が送信した。
会議室を出る直前、上司は私に向かって言った。「今まで穴を埋めてくれて助かった。業務配分、見直すから」
「朝9時までに連絡」を見える場所へ
その週の終わり、チームの運用ルールが更新された。社内ポータルのトップに掲示し、チャットの固定メッセージにも入れた。
・体調不良や私用で休むときは始業1時間前までに連絡すること。
・在宅勤務の申請は前日までに。やむを得ない場合は上司の承認と、接続確認の報告を出すこと。
・顧客対応の引き継ぎは、テンプレのシートに書くこと。
朝、担当表を開くとその日の持ち物が一目で分かるようになり、電話の取り次ぎで迷うことが減った。欠勤や在宅の連絡は朝9時までに届くようになり、午前の調整にかかる時間が短くなった。チャットの固定メッセージを見た新人からは「ここ見ればいいんですね」と言われ、引き継ぎシートの記入漏れも目に見えて減った。
Sはというと、毎日出社してファイル整理やFAQの更新に取り組んでいる。古い手順書の差し替えや、問い合わせ履歴のタグ付けなど、表で回っていない作業は山ほどある。そこに人手が入ったおかげで、長く詰まっていた社内作業が進み始めた。
その後、夕方の欠勤連絡が消えた
A社の窓口を正式に引き継いでから、担当者さんとのやりとりはスムーズになった。遅れていた見積の差し替えを詰めると、「今回は助かりました」と返ってきた。
私個人としては、夕方に突然「今日は休みます」と来ないだけで、こんなに気持ちが軽いのかと実感した。休むこと自体は誰にでもある。ただ、連絡と引き継ぎも仕事の一部だと、今回ほど具体的に見えたことはない。
会議室で上司が示した一文は、Sの「在宅でやってます」という主張と並べて確認する材料になった。言葉と記録を突き合わせて担当を見直し、運用を明文化したことで、私が抱えていたモヤモヤはやっとなくなった。
さいごに
嘘やごまかしは、まず現場の同僚に重くのしかかります。今回は、それが数字と短い一文で見える形になりました。休みや在宅は悪いことではありません。連絡と引き継ぎの筋、あなたの職場ではどう整えますか?そんな経験、ありませんか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


コメント