揚げ物の皿をテーブルに出すと、夫の箸が真っ先に飛んでくる。私の皿に置いた分まで、いつのまにか減っている。注意しても「腹減ってるから」で流され、これがクセになってきたと思った。
夫「俺のほうが8万多いから」
平日の夜、唐揚げとサラダの簡単な夕飯。私がマヨをかけようとしたとき、夫が私の皿を引き寄せた。
「俺のほうが給料8万多いんだからさ。お前の分も食っていいだろ」
言葉が詰まった。「食べるなら先に言って。私のぶん、ちゃんと残しておいてよ」
「家計は俺が多く出してる。細かいこと言うなよ」
その夜は、私がスープを多めによそって私が折れる形で終わらせた。でも、この理屈はこの先も繰り返されるな、と分かった。
「お前の分、残す必要ない」
週末のテイクアウトでも同じことが起きた。餃子を6個買えば、私のぶんは2個のはずが、気づけば1個。
「お前、ダイエット中だろ? 減らしといた」
外食でも差が出た。夫は単品で高いステーキ、私は日替わり。シェア前提と言いながら、私が箸を伸ばす前に夫がほとんど食べる。会計は家計カードで落ちる。
そのカードの明細に、見覚えのない店名が増えた。問いかけると、夫は肩をすくめる。
「接待だよ。仕事のうち。家のためにもなるだろ」
家計簿アプリと通帳を合わせて、項目ごとに足した。食費の枠から、飲み代らしき支出が毎月まとまって出ている。会社名義の経費処理ではない。私が立て替えた日用品のレシートだけがきれいに残っているのが、余計に虚しかった。
このまま黙っていたら、食卓でもお金でも同じことが続く。区切りをつけよう。
「明細、出して」
土曜の午後、テーブルに紙を並べた。家計簿のプリント、家計カードの利用明細、通帳の記録。それから、私の給与明細と源泉徴収票。
「今日の夕飯は別で用意する。先に、これを確認したい」
夫は顔をしかめた。「プライバシーだろ。夫婦で明細とか、冷めるわ」
「『俺のほうが8万多い』って言ったよね。じゃあ、その根拠も一緒に見せて。飲みの分を家計から出すなら、内訳も説明して」
渋る夫に、家計カードのページを指さす。「ここ、先月の飲みの合計。3万円台の日が3回。食費の枠で落ちてる」
夫は黙ってスマホを取り出し、自分の給与明細を開いた。差し出された数字を、私のものと横に置く。月の手取りは夫が少し多い月もある。でも、年の合計は私のほうが上だった。ボーナスの差が、そのまま出ている。
「…あれ?」と夫がつぶやき、画面を拡大する。「8万って、どこから出てきた?」
「前の部署のときの感覚で言った。悪かった」
家計カードの履歴も並べた。居酒屋、バー、タクシー。会社の経費にしていないのは見れば分かる。
「これ、私がトイレットペーパーを買った同じカード。食費と飲み代、混ざってるよ」
夫はしばらく黙り、長く息を吐いた。「…ごめん。カード、返す」
「家計カード、返す」
夫はテーブルの上に家計カードを置いた。「飲みは自分の財布から出す。外食も各自会計にしよう。食事は先に取り分ける。お前の皿には手を出さない」
「それと、家事も見直したい。料理と皿洗い、交代でやる」
私たちはノートに約束を書いた。家計カードは私が保管、用途は食費と日用品のみ。共同の食事は材料費を半分ずつ。飲みは各自。外食は注文から別にする。お金の話は月末に10分だけ時間をとる。
「今までの分は、私の愚痴を聞くことでチャラでいいよ」
冗談めかして言うと、夫は苦笑いしてうなずいた。
「これ、俺が作るよ」
翌週から、夕飯の最初のひと口を落ち着いて味わえる時間に戻った。取り分は最初に2皿に分ける。私の皿に夫の箸が来ることはない。
夫は曜日を決めて、味噌汁や炒め物を作るようになった。「このレシピ簡単だな」とスマホを見ながら、分量をメモしている。外食は、各自が好きなものを頼み、伝票も別にした。
家計簿の画面もすっきりした。飲みの項目は夫の個人出費へ移動。食費は予算内で回る。
「この前の件、ほんと悪かった」
夫がそう繰り返すたび、私も答える。「私もため込まずに言う。数字は、見えるようにしておこう」
その後
月末の10分会議を続けている。家計カードの用途は守られ、外食での“取り分争い”は消えた。紙の束は引き出しのひとつに入れてある。必要になったら、また一緒に見るだけだ。
さいごに
モヤモヤを言い合いで押し切るより、手元の数字や現物を並べるほうが早いこともあります。見える形にすると、言い逃れしにくいですよね。似た悩みがある人は、家計と明細をそろえるところから。あなたなら、どこから始めますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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