秋の気配が濃くなるころ、園のバザー準備が一気に動き出しました。
私は30代の在宅ワーカーで、普段は小さなデザイン案件を自宅で請けています。
送迎帰りに園庭の隅で立ち話をしていると、同じクラスのママ友が係資料を抱えたまま近づいてきました。
最初は「ちょっとだけ」のチラシでした
彼女はスマホの画面を開き、手書きのラフと日時メモを見せてきました。
「チラシ作る人がいなくてさ。こういうの得意なんでしょ、お願いできない?」
係のグループLINEで「デザインできる人いませんか」と流れていたのを、彼女が窓口になって私に声をかけた形でした。A4一枚で掲示と配布に使うだけと聞き、私は「今週中なら大丈夫だよ」と返しました。
その夜、子どもを寝かせてから初稿を作り、PDFを1案送ると、すぐに返事が来ました。
「かわいい! でも色をもう少し明るくして、写真も入れられる?」
私は軽い調整だと思い、引き受けました。
夜の通知で増える「あと少し」
翌日以降、通知は夕飯どきや歯みがきの時間にも鳴りました。
彼女は係の意見をまとめて送ってきて、文面にはいつも「あと少し」が付いていました。
「文字もっと大きくできる?」
「この文章も追加して」
「背景を淡くして」
「別の係が、もう1パターンも見たいって」
修正は一回につき30分ほどかかりました。
フォントの読みやすさを確認し、写真の解像度を揃え、余白を整えると、思った以上に手が止まりませんでした。
初稿に約2時間かけていたので、気づけば合計で4時間を超えていました。
極めつけは印刷前夜でした。
「最終でお願い」と届いたので反映して送ると、1分後に「やっぱり最初の背景色に戻せる?」と戻ってきました。
私はマウスを握ったまま、シンクに残るコップを見ていました。
自分の仕事の締切が翌日に迫っているのに、善意の作業に時間が奪われていくように感じました。
しかも、お礼や費用の話は一度も出ませんでした。
「これお願い!」はあっても、「何か手伝えることある?」も「時間は大丈夫?」もありませんでした。
無償が前提のまま、修正だけが無限に続いているように感じました。
パソコン横にメモを書いた
このままでは生活も仕事も支障が出ると思い、私は深呼吸して、パソコン横にメモを置きました。
メモには作業の内訳も含めて、短く条件を書きます。
・初稿は2時間まで(今回分で対応)
・修正は合計2回まで(1回30分目安)
・写真や文章の確定は係でまとめてから送付
・印刷代は係の予算で負担
・有料素材やフォントを使う場合は、事前承認のうえ実費精算
翌朝、彼女に個別で連絡しました。
「チラシはここまで作れます。今後の修正はあと2回までにしたいです。印刷代と、有料素材を使う場合の実費は係で負担してください。難しければ、現時点のデータをお渡しするので別の方に引き継ぎます」
送信してからスマホを伏せ、洗濯物を畳みました。
責めたいのではなく、続けるための線引きが必要でした。
少し間が空いて返事が来ました。
「そんなに時間かかってたんだね。ごめん。修正はこれで最後にする。写真も文章も一回でまとめて送るよ。印刷代も係で出すね」
こちらの条件が「無理」ではなく「見える」形になったからだと感じました。
次の頼まれごとが軽くなりました
その後、彼女は係のグループLINEに投稿してくれました。
「デザインは修正2回まででお願いしよう。写真と文章はまとめて送る。印刷代と有料素材の実費は係で負担ね」
一文が流れただけで、空気が変わりました。誰かの善意を前提に積み上げない、という共通認識ができたのだと思います。
バザー当日、掲示板に貼られたチラシを見て、私はようやく素直に眺められました。帰り道、彼女が小さく言いました。
「次にお願いするとき、最初に条件聞いていい?」
在宅の仕事は、家にいる分だけ軽く見られやすいです。
それでも、作業時間と集中力には限度があります。
対応できる範囲を具体的な言葉にしただけで、無理のない頼み方に変わっていくのだと実感しました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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