義実家の座卓には、揚げたてのから揚げや煮物が並んでいた。
久しぶりに親族がそろった昼食だった。
向かいに座る義妹の娘と、私の息子は同じ高校3年生。どちらも進路の話が増える時期だったこともあり、その日も自然と大学受験の話になった。
ただ、私は少し身構えていた。
義妹は昔から、何かと比べたがるところがある。
「うちは塾なしで決まったの」
料理を取り分けながら、義妹が言った。
「うちの娘、塾なしで進学先決まったの。結局、本人の力があれば何とかなるんだよね」
娘の進路が決まったこと自体は、本当におめでたい。
私も「よかったね」と返した。
ところが、義妹はそのまま私に顔を向けた。
「そっちは塾行ってたんだっけ?」
「うん。高3になってから近所の塾に通ってるよ」
そう答えると、義妹は少し笑った。
「大変だね、月謝。うちはそこゼロだから助かったわ」
私は湯のみを持ち直した。
息子は部活も委員会も最後まで続けながら、放課後に塾へ通っていた。
分からないところを質問し、定期試験の前には自分で予定を組み直し、学校の課題も出していた。
塾に通ったからといって、本人が何もしなくてよかったわけではない。
それでも、私はその場では何も言わなかった。
「塾で作る成績もあるじゃない?」
話題が変わるかと思ったが、義妹はまだ続けた。
「でも、塾でかなり成績上げる子もいるじゃない? どこまでが本人の実力なのか分からないよね」
さすがに引っかかった。
「塾に行ったって、勉強するのは本人だよ」私はそう返した。
義妹は、「まあ、それはそうだけど」と言いながら笑った。
「で、結局いくらくらいかかったの?」
そこまで聞かれて、私は少し黙った。
塾代が安くなかったのは事実だ。
でも、わが家が必要だと思って選んだものを、義妹に評価してもらう必要はない。
「それぞれ合うやり方があるからね」
そう言って話を切ろうとした。
それでも義妹が、
「でも、できるなら塾なしのほうが親孝行だよね」
と言ったとき、私は初めてはっきり返した。
「塾に行ったかどうかで、子どもの頑張りまで決める言い方はやめようよ」
座卓が少し静かになった。
「そういえば、うちも進路が決まったよ」
義母が「まあまあ」と言いかけたところで、夫が私を見た。
その日の数日前、息子の進学先も決まっていた。
息子からは、「聞かれたら言っていいよ」と言われていた。
私は別に隠す理由もないと思い、普通に伝えた。
「そういえば、うちも進路決まったよ」
義母がすぐに、「そうなの?」と顔を上げた。
「指定校推薦で、希望していた大学に合格したの」
義母がぱっと笑った。
「まあ、おめでとう。よかったねえ」
義父も、「部活も最後までやってたんだろ。頑張ったな」とうなずいた。
夫も隣で「本人、かなりほっとしてたよ」と笑った。
義妹は少し驚いた顔をした。
「推薦だったんだ」
「うん。必要な評定を取って、校内の選考を通って、面接も受けたよ」
そう説明した。
すると義妹が、「でも一般受験とは違うでしょ」と口にした。
私はそこで、また比べる必要はないと思った。
「うん、受験方法は違うよ。でも、どっちが上とか下とかいう話じゃないと思ってる」
そう答えた。
義母が言ったひと言
それまで黙って聞いていた義母が、お茶を置きながら言った。
「二人とも進路が決まったなら、それでいいじゃない」
義妹は何も言わなかった。義母は続けた。
「塾に行く子もいるし、行かない子もいる。推薦で行く子もいれば、試験を受ける子もいるでしょう。それぞれ自分に合う方法で頑張ったんだから」
義父も、「人んちの月謝まで比べなくていいだろ」と笑った。
義妹は少し気まずそうに、
「まあ、そうだね」
と答えた。
そこでようやく、別の話題に移った。
塾に通ったことも、息子が選んだ方法のひとつ
帰宅してから、私は改めて息子が受験までにしてきたことを思い返した。
塾に通えば、自動的に成績が上がるわけではない。
息子の場合は、分からない問題をそのままにしないために塾を使っていた。
部活の大会前には授業時間を調整してもらい、定期試験前は学校の勉強を優先した。
指定校推薦を考えるようになってからは、評定を落とさないよう定期試験や提出物にも気を配っていた。
面接の前には、学校の先生にも塾の先生にも練習につき合ってもらった。
もちろん、塾代はかかった。
でも私たちは、それを「本人に合った方法を選ぶためのお金」だと思っていた。
だから、塾に行かなかった子のほうが偉いとも、塾に行った子のほうが有利だったとも思わない。
子どもによって必要なものは違う。
本当は、それだけの話なのだと思う。
その後
次に義実家で会ったとき、義妹から「塾代いくら?」と聞かれることはなかった。
娘の大学生活の準備について話すことはあっても、以前のように、
「うちは塾なしだから」
「そっちはお金かかったよね」
と比べる言葉は出なくなった。
一度だけ、
「推薦って、評定をずっと取ってないと難しいんだね」
と言われた。
私は、「学校によって条件は違うけど、息子のところはそうだったよ」とだけ答えた。
それ以上、どちらの子が大変だったかを競う話にはしなかった。
義妹が何を思ったのかは分からない。
でも、私はあの日、一つだけ決めた。
自分への軽口なら流せることもある。
けれど、子どもが積み重ねてきた努力を、「塾に行ったから」「推薦だから」という一言で軽く扱われたときは、黙って笑わなくていい。
相手の子を下げる必要もない。
ただ、「うちの子も頑張ったよ」と普通に言えばいい。
今はそう思っている。
さいごに
受験の方法も、勉強の仕方も、家庭によってさまざまです。
塾に通う子もいれば、自宅で勉強する子もいる。推薦を選ぶ子もいれば、一般選抜に挑む子もいます。
違う方法を選んだからといって、それまでの努力まで比べる必要はないのかもしれません。
子どもの進路を比べるような言葉を向けられたら、あなたならどこまで受け流し、どこで「それは違う」と伝えますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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