幼稚園の門の前、さなえさんはいつも少しだけ早く来ていた。誰よりも先に並んでいる。目の下にうっすら浮かぶ影が、なんとなく気になっていた。
「全部やり直しさせられるんです」
さなえさんが打ち明けてくれたのは、知り合って半年ほど経った秋の朝だった。
「義母と同居してて、子育てのことを全部口出しされるんですよね」
さなえさんの義母は60代。昔ながらの子育て観を強く持っていて、離乳食の進め方、寝かしつけの順番、着せる服の枚数まで——さなえさんが決めたことを、ことごとく「それは違う」と覆してくるのだという。
「私が寝かしつけた後に起こして、義母が自分のやり方でもう一度寝かしつけるんです。”やり直し”って感じで」
笑いながら話してくれたけれど、笑えない話だった。
毎朝の影の正体が、やっとわかった
毎朝の目の下の影の意味が、そこでようやくわかった。
子どもが夜中に何度も起こされる。それは親にとって当たり前の疲れ。でもさなえさんの疲れには、もう一枚余計な重さが乗っかっていた。
「義母は悪い人じゃないんです。孫がかわいくて、ちゃんとしてあげたくて。頭ではわかってるんですけど……」
言葉がそこで途切れた。
「でも、自分のやり方が全部ダメだって言われ続けると、だんだん何が正しいのかわからなくなって」
そのひとことが、ずっと頭に残った。
義母が「あなたのやり方で育てて」と言った日
それから季節が何度も変わった。子どもたちが年長に上がり、クラスが離れてもたまに立ち話をする仲になっていた。
ある春の夕方、さなえさんから短いメッセージが届いた。
「今日、義母にすごいことを言われました」
急いで電話をかけると、受話器の向こうで声が震えていた。
「義母が、”あなたのやり方で育てて”って言ってくれたんです」
理由はこうだった。孫の運動会で、さなえさんが一生懸命作ったお弁当を、子どもが「ぜんぶたべた!」と報告してきた。それを見て義母は、何かが変わったらしい。
「”私がごちゃごちゃ言いすぎてたね。あなたはちゃんとこの子のことわかってる”って」
3年かかった、たった一言。
さなえさんの声は、途中から言葉にならなくなっていた。私もこらえきれなくて、電話口でこっそり泣いた。
さいごに
3年間、正解がわからないまま毎朝立ち続けたさなえさんのことを思うと、胸がぎゅっとなります。義母の言葉は遅かったかもしれないけれど、届いたその日のことをさなえさんはきっとずっと覚えているはず。誰かに黙って耐えてきた経験、あなたにもありますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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