義弟がはじめて「お金を貸してほしい」と連絡してきたのは、真夏の夜のことだった。
夫はすぐに「弟だから」と答えを出してしまって、私はその瞬間から何かが変わる気がしていた。
「お兄ちゃんなんだから50万くらい(笑)」
義弟は30代のフリーランスデザイナーだという。
会うのは年に数回、義実家の集まりくらい。愛想はよくて、夫のことを「お兄ちゃん」と慕っている様子もあり、私も最初は悪い印象はなかった。
その夜、夫のスマホに届いたメッセージをたまたま横から見てしまった。
「今月資金繰りがやばくて。お兄ちゃん50万だけ貸してよ(笑)」
軽すぎる。「(笑)」がついてはいるけれど、金額は50万円だ。私は思わず夫の顔を見た。夫は困った顔をしながらも、「弟が困ってるなら」と言った。
——あ、これは止められないやつだ。
私は反対意見を一度だけ口にした。
「返済の約束をちゃんと取り決めてから渡してほしい」と。
夫は「わかった」と言ったが、結局メッセージのやり取りで「来年の春までに返す」という曖昧な言葉を引き出しただけで、弟に50万円を振り込んだ。
その日から私は、家計の支出管理スプレッドシートに「義弟貸付」という新しい列を作った。
「もう少し待って」→義母「外壁代も出して♡」
春の返済期限が来ても、義弟からは何の連絡もなかった。夫が恐る恐るメッセージを送ると、「もう少し待って」とだけ返ってきた。
夫は「仕事が大変なんだろう」と言った。私は何も言わずにスプレッドシートに「返済なし・6か月経過」と打ち込んだ。
そしてその翌週、今度は義母から連絡が来た。
「実家の外壁がかなり傷んでいてね。修繕費が100万かかるって言われて。あなたたちにも少し負担してもらえないかしら。陽介も出すって言ってるし」
——義弟が出す?今、50万円を返せない義弟が?
私はすぐには何も言わなかった。ただ、スプレッドシートに新しい行を追加した。「義実家外壁修繕・義母より負担要請・金額未定」。
黙って積み上げた「もうひとつの記録」
このころから私は義実家関連の出費をすべて記録するだけでなく、少し調べることにした。義弟のSNSを見てみると——驚いた。
「新しいMac買ったー!」「友達と沖縄!最高すぎ」「おしゃれなカフェで仕事(写真)」。
返済期限を過ぎた時期と投稿日付が、きれいに重なっていた。
私はスクリーンショットを日付つきで保存し、銀行の振込履歴のコピー、夫と義弟のメッセージのやり取り(夫に頼んでスクリーンショットをもらっていた)、そして家計のスプレッドシートをひとつのフォルダにまとめた。
——別に戦争がしたいわけじゃない。でも、事実は事実として残しておかなければ。
食卓に置いた5枚が、夫の目を覚ました
義母から「外壁の件、どうする?」と再度連絡が来た週末の夜、私はプリントアウトした資料を食卓に置いた。
A4で5枚。銀行振込記録、返済期限のメッセージ、義弟のSNS投稿の日付一覧、そして家計への影響をまとめたスプレッドシート。
「見てほしいものがあって」
夫はしばらく無言でページをめくっていた。SNSの投稿ページで手が止まった。
「……これ、返済期限の翌月じゃないか」
「うん」
夫の顔から血の気が引くのがわかった。夫は怒りとも悲しみともつかない表情で、「俺、騙されてたのか」とつぶやいた。
夫が義実家に電話をかけたのはその夜だった。資料を全部義母にも見せると伝えると、義母は絶句したあと「陽介に確認する」と言って電話を切った。
義弟が震え上がった、その後のこと
翌日、義弟から夫に電話があった。声が震えていたらしい。「全部見せてもらった。ごめん」と。
夫は静かに、でもはっきりと言ったそうだ。
「返済の計画を書面で出してくれ。それと、外壁の件にうちは関わらない」と。
義母はその後、外壁の件について私たちに連絡してこなくなった。義弟からは毎月少額ずつ返済が始まり、夫は「全額戻ってきても、もう同じことはしない」と言っている。
怒鳴らなかった。泣きもしなかった。ただ、事実を5枚の紙に並べただけ。それが私たちの家庭を守ってくれたのだと、今は静かに思っている。
さいごに
感情的に動かず、記録を積み重ねたことで、旦那さん自身が現実を受け入れてくれた——それが一番大きかったと思います。
大切な人を傷つけたくないから、黙って我慢してしまうこと、ありますよね。でも「事実を見てもらう」ことは、責めることとは違う。記録は、静かだけれど確かな味方になってくれるかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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