ランチ会のたびに、なんとなく後味が悪かった。
原因はわかっていた。でも「まあいいか」と飲み込んできた。そのモヤモヤが、ある日のランチで一気に晴れることになる。
「松コースにしようかな♪ 割り勘でいいよね?」
近所のママ友グループで、月に一度ランチ会をしている。
メンバーは私を含めて5人。子どもの年齢が近いこともあって、自然と集まるようになったグループだ。
いつもリーダー格なのが、桐島さん(仮名)という40代前半のママ。
ハキハキしていて話題の中心にいるタイプで、悪い人ではないと思っていた。ただ——一つだけ、ずっと引っかかっていることがあった。
この日も、みんなが1500円前後の定食やパスタを選ぶ中、桐島さんだけがさらっとこう言った。
「お腹すいてるから今日は松コースにしようかな♪ 割り勘でいいよね?」
松コース、3200円。
「……まあ、いいんじゃないですか」と誰かが言い、その場はそのまま流れた。
私も笑顔でうなずいた。でも心の中では——また? という言葉が静かに渦巻いていた。
毎回「自分だけ高いもの」、毎回「割り勘でいいよね」
よく考えたら、これは初めてではなかった。
先々月は「ちょっといいワイン飲んじゃった♪」と一人だけグラスワインを追加して、それも割り勘に含まれていた。
先月は「デザートセット付けてもいい?」と確認なしに注文して、やっぱり均等割り。
毎回の差額は数百円から千円程度。一回で見ればたいした金額じゃない。
でも積み重なると、なんとも言えない気持ちになる。
——私たちは桐島さんの食事を一部肩代わりし続けているんだな、と。
それでも声に出せなかったのは、桐島さんが悪い人ではないからだ。
場を盛り上げるのが上手で、子育ての悩みも気さくに聞いてくれる。「こんなことで揉めたくない」という空気が、毎回みんなの口を閉じさせていた。
「それ、前から気になってたんだよね」
転機は、その日のランチの帰り道に起きた。
お店を出てしばらく、メンバー全員でぶらぶら歩いていたとき、谷口さんがふと切り出した。
「ねえ……今日のお会計さ、一人だけコース料理だったのに割り勘だったよね」
一瞬、場がシンと静まった。
「……そうなんだよね」と別のメンバーが口を開いた。
「毎回ちょっとずつ多く頼んでて、でも言いにくくて」
「私も同じこと思ってた」とさらに続く声。
「500円くらいの差ならまだしも、今日は1000円以上違ったし」
みんながそれぞれ、ずっと感じていたことを初めて口にした瞬間だった。
桐島さんはもう先に帰っていたけれど——空気は、決定的に変わった気がした。
次のランチ会で、静かに「仕組み」が変わった
翌月のランチ会。
今度は谷口さんが幹事を申し出て、予約の際にこんなルールをさらっと提案した。
「お会計は各自の注文金額で個別精算にしようと思うんだけど、どうかな? そのほうがシンプルだし」
誰も反対しなかった。桐島さんも「あ、そうね、そっちのほうがわかりやすいかも」と笑顔で同意した。
そのランチで桐島さんが頼んだのは、みんなと同じ1500円台の定食だった。
いつもなら迷わず上のコースを選ぶのに、個別会計と分かった途端、自分だけ張り切るのもなんだか違う気がしたのだ。
帰り道、谷口さんと二人で「今日すっきりしたね」と笑い合った。
大げさな対立も、険悪な空気もなく、ただ「公平な仕組み」が静かにできあがった。
その後のランチ会は、ずっと居心地がいい
それ以来、ランチ会は個別精算が定着した。
後味の悪さが消えると、会話がもっと楽しくなった。
桐島さんとの関係もそのまま続いていて、今もふつうに笑って話している。
あの日のモヤモヤがずっと続いていたら、きっと私はそのうちランチ会自体を断り始めていたと思う。
谷口さんの何気ないひと言が、みんなの「言えなかった本音」を引き出してくれた。
小さなことだけど、それで十分だった。
さいごに
「言いにくいけど、ずっと気になってた」——そんな気持ちを抱えたまま笑っていた経験、あなたにもありませんか? 誰かの素直なひと言が、みんなが飲み込んでいたものを静かに解放してくれることがある。小さなモヤモヤでも、積み重なれば確かに重くなるもの。あなたなら、どうしますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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