内定通知は届いていたのに、配属面談の空気は冷たかった。
名札の肩書に「部長」。私の履歴書の大学名に目を落とした彼は、口元だけで笑った。
嫌な予感は当たった。
部長「主力案件は出せないけど」
「その大学じゃ、採用しても主力案件は出せないけどね。最初は資料整理やテストの手伝い。ま、上を見て頑張って」
面談と言いながら、説明はそれだけ。質問をしようとすると「現場は忙しいから、君は全部メモして学べばいいよ」と遮られた。
学ぶのは好き。でも、最初から人を枠に入れて、仕事を分ける宣言をされると、こちらもいい気分にはならない。
「配属は固定ですか?」と聞くと、「一軍は無理だよ。いいポジションは競争だから」と笑った。
「入社しても雑用ね?」に私の答え
家に帰ってから一晩考えた。せっかくの内定を手放すのは怖い。でも、ここで始めたら、肩書きで延々と隅に置かれる気がした。
翌日、採用担当に電話した。「申し訳ありません。内定は辞退します」。理由を聞かれて、「面談でうかがった配属と育成の方針が、自分の働き方とは合わないと感じました」とだけ伝えた。
その後、別の会社に入社した。事業会社の情報システム部で、老朽化した社内システムの入れ替えが何年越しの課題になっていた。私は運用保守から入り、障害対応の体制づくりやベンダーとの調整を任されるようになった。
3年後、上司「選定責任者は彼女」
入社3年目。ついに基幹システムの刷新プロジェクトが動き出した。複数社から提案を受け、費用・性能・サポートを比較して選ぶ。私が選定責任者に指名された。
候補企業の中に、以前内定を辞退した会社があると分かった時点で、私は上司と選定委員へ当時の経緯を申告した。上司は「私情を挟まないよう、事前に決めた評価表を使い、複数人で採点しよう」と確認した。私は了承し、質問項目も全社で統一した。
初回の提案会。名刺交換の列の向こうで、見覚えのある顔がこっちを探していた。あの部長だ。彼は提案企業の責任者として来ていた。
「今回の選定責任者は彼女です」と、私の上司が紹介した瞬間、彼は名刺を持つ手を止めた。私の顔と名札を見比べて、小さく「あぁ…」と漏らした。
「本日はよろしくお願いします」。私は普段どおり頭を下げ、席に着いた。
私情抜きで出した比較表
提案はどの社も力が入っていた。機能は似通っていても、運用とサポートで差が出る。うちは全国に拠点があり、夜間・休日の障害にも対応できる体制が必要だ。
選定チームは事前に比較表を作っていた。拠点数、一次対応の受付時間、現地駆けつけの可否、専任担当の人数、障害時の連絡ルート、サービスの約束を守れなかったときの取り決め。価格はもちろん、ここが肝だと全社に伝えてある。
あの部長の会社は、機能面は強かった。でもサポート体制のスライドで、夜間は一次受付のみ、現地対応は翌営業日、保守要員は本社3名と出た。
「全国拠点の障害には、どう対応しますか?」と私が聞くと、「まずはリモートで状況確認を…」と前置きし、「現地対応は翌営業日ですね」と続いた。
私は評価表に記録し、他社の提案でも同じ質問を繰り返した。各委員が独立して点数を付け、最後に集計する進め方だった。ある会社は地方にも拠点を持ち、夜間の出動ルールまで具体的に示していた。
会議室を出ると、彼が私に近づいてきた。「前は言い方がきつかったね。あれは、まあ、社内のノリというか…」
「選ぶ基準は事前にお伝えしたとおりです。学歴は入っていません」とだけ返した。
「再検討を」と食い下がる部長
一週間後、選定会議で最終順位が決まった。総合点で他社が上回った。理由は、夜間と地方拠点のサポート体制の差だ。
結果を伝える場に、各社の担当が同席した。私が比較表をスクリーンに映し、「今回の要件だと、御社のサポート体制では任せられません」と説明したとき、彼は椅子から前のめりになった。
「再検討をお願いできませんか。価格は調整しますし、夜間についても…検討します」
「価格の見直しは評価しました。ただ、体制づくりは今日から急に変えられるものではありません。導入後に困るのは現場です。こちらの判断は変わりません」
彼は「そう…ですか」と言い、手元の資料の端をしばらく整えていた。
会議後、廊下で「前はすまなかった。本当に」と頭を下げられた。私は「こちらこそ、提案ありがとうございました」とだけ言って、その場を離れた。
その後、肩の力が抜けた働き方
採用したベンダーとは、夜間の連絡網を一緒に整え、拠点ごとの駆けつけ時間も明文化した。障害が起きた夜に、約束どおりの対応で持ち直したとき、現場から「助かった」とメッセージが来た。
社内では、私が作った比較表と説明資料が共有され、「次の案件も頼む」と声をかけられるようになった。
3年前の面談で感じた小さな違和感は、私の選び方を決めただけだった。目の前の仕事に必要な条件を整えられるか。見るのは、そこだけでいい。
さいごに
学歴は経歴の一部であって、目の前の仕事に必要な力をすべて示すものではありません。採用や取引先を選ぶとき、あなたならどんな実績や姿勢を重視しますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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