夜勤明け、仕事を終えて家の鍵を開けた。ポケットで携帯が震え、画面には夫からの短いメッセージ。「駅で待ち合わせした部下を今から連れて行くから。パパッと何か用意しといて」
頭に入ってこない。眠気より先に、胸のもやもやが広がった。
「パパッと出しといて」だけ置いてくる夫
返信を打つ間もなく、玄関の前で声がした。「ただいまー!」の後ろに、若い男性たちの笑い声。事前の相談は一切なし。冷蔵庫にあるものを思い浮かべながら、私はエコバッグから駅前で買っておいた総菜を取り出した。自分の昼用に買った唐揚げと春雨サラダ、トマトに豆腐。紙皿と紙コップを出して、テーブルに並べる。
夫は靴を脱ぐなり、部下に向かって「うちのは段取りが早いから」と胸を張る。私はまだ髪も結び直していない。
「奥さん、今日お休みじゃ…?」に夫が詰まる
玄関先で靴をそろえていた一人が、私が玄関に置いていた名札を見て目を丸くした。「あの…奥さん、医療の方なんですか?」
「はい。さっきまで夜勤で。今帰ってきたところです」
「え?」と小さく声がもれる。夫が慌てて割り込む。「今日はたまたまなんだよ。な、そうだよな?」
私は首をひねった。「たまたまじゃないよ。月に何回もあるって、前に言ったよね」
部下の一人が気まずそうに目をそらす。「すみません、僕、てっきり…」
夫は咳払いして「とにかく座って」と場を進めようとしたが、視線は落ち着かない。
「これで精一杯。あとはお願いね」
私はテーブルの端に箸と取り皿を置いた。「買っておいた分だけ並べたよ。これで精一杯。私は仮眠したいから、あとはあなたにお願いするね」
夫は笑ってごまかそうとした。「いやいや、ちょっと手伝ってくれたら…」
「手伝いじゃないよね。あなたの来客だし。洗い物もゴミも、お願い」
部下たちは「いや、そんな、すみません」と慌てて頭を下げた。私は会釈して寝室へ引き上げる。ドアを閉める前、部下に「聞いてた話と違います」と指摘され、夫が言葉に詰まるのが聞こえた。
「今日はすみません、帰ります」の連鎖
居間からは缶を開ける音と、途切れがちな会話。笑い声は長く続かない。料理はほとんど減らず、玄関の方で「今日はこれで…」「また会社で」と順に挨拶する声がした。
私が目を閉じてから、まだ一時間も経っていない。玄関のドアが閉まったあと、居間の音が止んだ。
「家は奥さんの職場じゃない」と言われた夫
翌日、夫は早めに帰ってきて、玄関で靴を脱いだまま私に頭を下げた。「昨日のこと、悪かった。今日、係長に呼ばれてさ」
「何て言われたの?」
「部下から話が上がったらしくて、『家庭のことを軽く扱うな。準備が必要な飲みはせめて了承を得てからやれ。そもそも“奥さんは暇”なんて言うな』って」
私は驚かなかった。夫が見栄を張るとき、いつも少しだけ私の負担が増える。今回はそれが、他人の前で丸見えになっただけだ。
夫は続けた。「部下にも謝ったよ。もう家に勝手に連れてこない。昨日のお酒とか総菜代、俺が出すからレシートちょうだい」
「最初からそうしてくれたらよかったのに」
その後
それからは、来客は事前相談。宅飲みは基本的にしない。どうしても家でやるなら、買い出しと準備と片づけは夫の担当。夫は社内でも「妻は仕事をしてる」ときちんと言うようになったらしい。
私はというと、夜勤明けの日はメッセージで「これから寝るね」と送るようにした。眠れることが、いちばんのごちそうだ。
さいごに
見栄と軽い一言が、家の中では重たい荷物になることがあります。忙しい相手の時間を、勝手にあてにされたらつらいですよね。急な来客の準備を一方的に任されたら、誰が何を用意するのか話し合う必要があります。あなたなら、どの段階で断りますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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