平日の夕方、帰りの電車を待つホームで、1歳の娘がぐずり始めた。おむつが濡れているのはすぐに分かった。急いでベビーカーを押し、駅の多目的トイレへ向かった。
「使うなら言えば?」と言われても
多目的トイレの前まで来ると、制服姿の高校生が4人、床に座り込んで喋っていた。部活帰りらしく、大きなバッグやペットボトルが出入口の前に広がっている。
「すみません、通していただけますか」
そう声をかけると、一番手前にいた男子が顔だけこちらに向けて言った。
「使うなら言えばいいじゃん」
言えばいいと言われたので、もう一度「使います、通してください」と伝えた。けれど誰も動く気配がない。バッグをどける様子もなく、また元の状態に戻ってしまう。
娘は抱っこ紐の中でぐずり続けていた。周りにいた人が何人かこちらをちらっと見る。
泣き声が大きくなっても動かない
「電車、あと5分くらいだから別にいいじゃん」
誰かがそう言うのが聞こえた。座っている場所がちょうど電車待ちに都合がよかったらしく、多目的トイレの出入口付近が広いスペースになっているのを、ただの休憩場所として使っていたようだった。
娘の泣き声がだんだん大きくなる。私はもう一度「本当に使いたいので、どいてもらえますか」と言ったが、返ってきたのは「今どくから」という軽い返事だけで、実際には誰も腰を上げなかった。
このままではおむつを替えられない。抱っこ紐の中で娘の足がばたつき始めたとき、隣のベンチで電車を待っていた男性が、こちらの様子に気づいて立ち上がった。
男性が駅員に電話をかけた
「大丈夫ですか。ちょっと待っててくださいね」
男性はそう言うと、ホームの案内表示のそばにあった連絡用のインターホンを使い、駅員を呼んだ。
「多目的トイレの前に学生さんたちが座り込んでいて、赤ちゃん連れの方が使えずに困っています」
数分後、駅員が二人、小走りでやって来た。駅員は高校生たちに「ここは通路と多目的トイレの出入口ですよ。座る場所じゃないので、荷物と一緒に移動してもらえますか」と伝えた。
高校生の一人が「え、そんな決まりあるんですか」と聞き返すと、駅員は娘を抱いた私を指して「決まりより先に、今この方が困ってますよね」と言った。
気まずそうに荷物をまとめて
さっきまで「別にいいじゃん」と言っていた学生たちは、駅員に名前や学校を聞かれるわけでもないのに、急に押し黙った。
一人が小さな声で「すみません」と言い、荷物を抱えて立ち上がる。ほかの三人も後に続いた。誰も私と目を合わせないまま、少し離れたベンチへ移動していった。
駅員が「どうぞ、ゆっくり使ってください」とドアを開けてくれた。
その後、無事に電車に乗れて
多目的トイレの中でおむつを替えると、娘はすぐに泣き止んだ。外に出ると、声をかけてくれた男性がまだホームに立っていて、「間に合ってよかったです」と笑って言ってくれた。
「ありがとうございました、助かりました」とお礼を言うと、男性は「いえいえ、お互いさまですから」と軽く手を振って、自分の乗る電車に乗って行った。
高校生たちは少し離れたベンチで、さっきまでとは違って口数少なく座っていた。電車が来ると、何も言わずに乗り込んで行った。
さいごに
声をかけても動いてもらえないとき、無理に張り合わなくても、駅員さんのように頼れる立場の人に伝えるだけで、場はあっさり収まることがあります。困っている人を見かけたとき、あなたも声をかけられる一人になれたらいいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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