駅前を歩く足取りは軽かった。アプリで知り合った彼との初デートは、ごはんも会話も悪くない。最後に人気のカフェでコーヒーを買って締めよう、そんな流れになった。
入口には順番待ちの列。私が、列に並ぼうとしたとき、彼が店内に入って手を伸ばした。
「予約席、ちょっと借りよ♪」
テーブルに置いてあるカードを、彼が指先でスッとずらした。空いた席に私のバッグを置こうとする。
「待って。それ予約用のやつじゃない?」
「すぐ戻すよ。座って待ってればいいし」
店員さんの視線がこちらに向いた気がして、私はバッグを引いた。
「やめよう。呼ばれてからにしよう」
「大丈夫大丈夫。誰も困らないって」
その「誰も」を、私は自分の口では言いたくない。
「俺らこっちね」に止めた
番号が呼ばれるたび、一組ずつ動く。私たちの番号はまだ。
列の横でカウンター前に空きができた瞬間、彼が体を滑り込ませた。
「俺らこっちね」
「ここは違うよ。戻ろう」
私が言うと、彼は眉を上げて笑った。
「え、みんなやってるし。効率悪いよ?」
“みんな”が本当にやっているなら、こんなに静かな列はできていない。
私は最後尾に戻った。彼は一拍置いてついてきたけれど、会話は途切れがちになった。
「『ちょっと』が無理だと思った」
それまでは、好印象だった。
でも、順番やカードを“ちょっと”動かす感覚は、私には考えられない。
「ルールは誰かの手間でできてる」と思う人と、「形だけなら崩してもいいでしょ」と思う人。どちらが正しいかより、一緒にいるとき落ち着けるかどうか。
コーヒーはおいしかった。でもモヤモヤが残った。駅まで歩き、お礼を言って解散。帰宅してから、丁寧にメッセージを送った。
「今日はありがとう。ごはんも楽しかった。ただ、順番待ち件で私は気持ちよく過ごせなかった。価値観が合わないと思うので、ここで終わりにさせてください」
既読のあとに「え、なんで?気にしすぎ」と返ってきた。決めてよかった、とアプリを閉じた。
さいごに
小さな「ちょっと」に、その人の距離感やふだんの姿勢があらわれること、ありますよね。並ぶ・待つ・札を動かさない。誰かの番や約束を尊重できるかは、日常を一緒に過ごす土台になります。あなたなら、どこまでなら許せますか?次の約束へ進むか、どこで決めますか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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