母の湯呑みを洗いカゴに置きながら、胸のどこかがザワついていた。母は今、私と同居中。デイの送迎に合わせて薬を用意し、洗濯や着替えも私がやっているのに、介護費だけは兄が「年金は俺が管理」と握ったまま。領収書を一度も見たことがないのがずっと気になっていた。
兄「金は俺が払う。口出すな」
ある夕方、兄がふらりと来て言った。
「母さんの通帳、俺が預かってる。デイ代も払っとく。お前は世話だけ頼むわ」
「請求書はどこに届くの?」
「俺。細かいのは気にすんな」
利用回数や負担割合は変わる。確認したいと伝えると、兄は面倒そうに言った。
「俺が払うって言ってんだろ。任せろ」
その場は引いたけれど、違和感は消えない。私はノートに利用日と、兄との会話メモを残し始めた。
「未払いで次回が難しい」と電話
数週間後、緊急連絡先の私のスマホにデイから電話が入った。
「お母さまのご利用料ですが、先月分から入金がなく、このままだと次回のご利用が難しくて…」
「兄が払うと言っていましたが…」
「請求書はご家族の男性宛に郵送しています。お電話も差し上げましたが、ご不在で…」
私はデイに向かい、未払い明細を確認した。二か月分、空欄のまま。帰宅して兄に電話した。
「未払いで止まるって。どういうこと?」
「タイミングの問題だよ。給料日にまとめて入れるつもりだったんだよ」
「二か月分たまってるよ?」
「ちょっと借りてただけだって。すぐ戻す」
借りる? 誰の何を。私はその足でケアマネにも状況を共有しに行った。
私「請求は直で払うね」
翌日、母と銀行へ。母は軽い物忘れはあるけれど、かかりつけの医師からは「判断力は保たれている」と言われている。窓口で本人確認の質問に、母は自分の言葉で答えた。
通帳とキャッシュカードの再発行を依頼し、最近の入出金明細を印刷してもらう。デイへの支払いはないのに、毎月ほぼ同じ日にまとまった額が引き出されているのがわかった。
兄に写真を送り、通話をつないだ。
「このお金、何に使ったの?」
「生活費に回しただけだ。デイ代は後で払うつもりだった」
「母の年金は、母の生活のために使うもの。未払いは私が今すぐ払う。今後は請求も連絡も全部、私にして」
その場で新しい口座を作り、残高を移した。年金の振込先変更も申請。デイの請求書の宛先と引き落とし口座も書き換え、未払い分は母の新口座から私が振り込んだ。ケアマネにも「請求・連絡はすべて私宛に」と依頼した。
兄「困る! 鍵も返せ」
夜、兄から連続着信。
「通帳が使えない! どうした」
「母と手続きして暗証番号も変えた。お金は私が払うから、もう通帳は不要だよ」
「勝手にすんな! それと実家の鍵、よこせ」
母は今、私と同居。実家(母名義)は空き家だ。
「実家の鍵はお母さんの家の鍵。必要なら、お母さんの前で理由を言って」
兄は言い返すことができず、電話が切れた。
しばらくして、メッセージで「家族で話し合おう」とだけ送ってきた。私は返信した。
「ケアマネさん同席なら日時を調整するよ。それ以外の場ではしない」
「それはちょっと…」この返信を最後に連絡が来なくなった。
「払ってない」を一度で止める
数日後、ケアマネから連絡があった。
「請求・連絡先の変更、完了しました。次回も予定どおりご利用いただけます」
母はデイから笑顔で帰り、テーブルに塗り絵を広げる。私は月末に通帳を確認し、ケアマネとは月一で短く打ち合わせを入れる運びにした。
兄からはその後、「給料が入ったら返すから元に戻してくれ」「俺が管理するのが筋だろ」といったメッセージが来たが、未払いの謝罪はない。私は同じ文面を返した。
「支払いと連絡は私が受け持つ。お金の相談があるなら、ケアマネさん同席で」
既読だけつき、以降は音沙汰がない。家族のグループラインも退出した。
その後
デイの請求は自動引き落としにし、母の支払いと私の家計を分けたことで、どちらも見通しがよくなった。母の暮らしは安定し、送り出す朝の私の肩の力も抜けた。
「請求はこっちで払うね」。あの一言で、止まりかけた母の通いを守れた。
さいごに
お金を“誰がどう見える化するか”を曖昧にすると、弱い立場の人ほど困ります。身内でも、請求先や連絡先を決め直すだけで流れは変わりますよね。
気づいたとき、まず誰に連絡を入れますか? ケアマネや事業所に一本、で道が開けることもあります。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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