結婚して名字が変わった日から、会社での呼ばれ方が変わった。総務の先輩が「奥さんなんだから」と軽く言うのが増え、昼休みのたびにこの話が続くと、笑えなくなっていた。
「奥さんなんだから♡」が始まった日
給湯室でコップを洗っていたら、背後から言われた。
「夕飯、ちゃんと作るんだよ? 奥さんなんだから♡」
締切が重なる週で、残業も視野に入っていたところだった。
「今日は夫がカレー作る番で…」と言いかけると、先輩は手を振って遮る。
「ダメダメ、そういうのは最初が肝心。帰って支度、ね」
仕事の進行を知っている相手からのその一言に、返事がわからなくなった。私生活の段取りは家で話して決めている。そこに社内の先輩が入ってくる理由はない。
「義実家への手土産は?」で困った昼休み
別の日。デスクでお弁当を開けた瞬間、先輩がのぞき込んできた。
「週末、義実家行くなら手土産は必須ね。あと、お盆は長めに顔出ししないと」
「まだ予定は決めてないんです」とだけ返すと、周りの同僚が視線を泳がせた。
私も義母も、お互いに無理のない頻度でって話している。なのに“正解”を決めるみたいに押しつけられるたび、胸に小さなトゲが残った。
「残業はやめて夕飯優先で」と、帰り際に
月末、勤怠に申請したとおり、私は定時で上がる日だった。夫と役所に寄る約束がある。
帰り支度をしていると、先輩がやってきた。
「今日は残業無理? なら夕飯はちゃんと優先で。奥さんなんだから」
私はロッカーを閉めながら答えた。
「このあと役所に寄るので定時で上がります。夕飯の段取りは家で決めます。そもそもそれは私が決めることです」
出口側のドアに向かうと、先輩が小さな包みを差し出した。
「昼、言い方がきつかったかもって思って……これ、さっき用意したの。人がいないとこで渡したくて」
中は焼き菓子と、折りたたまれたメモ。開くと、手書きの文字が並んでいた。
「昔、義母に毎日『夕飯は?』『手土産は?』と言われてつらかった。誰にも言えなくて、人にも口を出してしまった。ごめんね」
あの人にも止まった時間があるのだと思った。だからといって、私の生活に踏み込んでいい理由にはならない。私は包みを持ち直して言った。
「お気持ち、ありがとうございます。でも家庭のことは私たちで決めます」
「それは私が決めます」を同じ調子で返す
翌朝、先輩が雑談の流れで「お盆は三日は顔出しなよ」と言いかけたので、私は前日と同じ調子で短く返した。
「その辺は家で決めます」
先輩は一拍置いて「…あ、うん」と引っ込めた。それからは回数が目に見えて減った。
メモは、私への説教というより、先輩が自分の過去に向けた言葉でもあったのだろう。背景に事情があっても、境目を決めるのは当事者同士。笑って流すときもある。でも越えてきたら、私は「それは私が決めます」とだけ言う。それで十分伝わると分かった。
さいごに
職場での“姑みたいな口出し”、小さな一言でも積もるとしんどいですね。事情があっても、家庭の段取りは家で決めたいもの。笑って流す日もあれば、短く伝える日もあっていい。あなたなら、どんな言葉で境目を伝えますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

コメント