子どものスポーツチームで「お金の管理」を引き受けてくれたママ友がいた。
頼りになる人だと思っていた。まさか、その信頼が4万円ごと消えていくとは、あのころの私には想像もできなかった。
「面倒なことは全部私に任せて」
小学3年生の息子が地域のサッカーチームに入ったのは、2年前の春のことだ。
チームには15人ほどの子どもが所属していて、保護者同士も試合の送迎や練習の手伝いで自然と顔なじみになっていた。その中で、いつも仕切り役を担っていたのが沙織さん(仮名・40代)だった。
「合宿費も備品購入も、バラバラに払うより私がまとめた方が楽でしょ」
最初にその言葉を聞いたとき、正直ありがたいと思った。共働きの私には細々した連絡や集金の調整をする余裕がなく、沙織さんのテキパキした仕切り方は頼もしかった。
以来、「合宿代1万5千円」「ユニフォーム代8千円」「練習用ボール代2千円」……と、声をかけられるたびに現金を手渡してきた。
「前のチームでも同じことがあったよ」
転機は、チームに途中から加入した麻美さん(仮名)のひと言だった。
「ちょっと、二人だけで話せる?」
駐車場で練習終わりに呼び止められた私は、麻美さんが声を落として話し始めた内容に、思わず足が止まった。
「前のチームでも沙織さんって集金してたんだけど、年度末に会計が合わなくて揉めたって聞いてて。ずっと言い出せなかったんだけど……」
——え。
その場では「そうなんだ」と返すのが精いっぱいだった。でも、家に帰ってからも、その言葉がずっと頭の中でぐるぐると回り続けた。
7人の記録からの差額4万円
翌週、私は麻美さんを通じて他の保護者5人に声をかけた。沙織さんには知らせずに7人だけのLINEグループを作り、それぞれが渡した金額と日付を一覧にしてみることにした。
みんな最初は「まさかね」と言いながらも、メモや振込記録、封筒に書いたメモ書きを次々と送ってくれた。
集計してみると、私たちが沙織さんに渡した総額は約17万円。一方、合宿施設の領収書や備品の購入レシートに残っている支出は約13万円。
差額は、4万円。
——これは、偶然じゃない。
その言葉が誰かの口から静かにこぼれた瞬間、LINEの画面がしんと静まり返った。
「確認させてほしいだけ」と、記録を差し出した
感情的に詰め寄るのは得策じゃない、とみんなで話し合って決めた。
次の練習日、7人で沙織さんに「会計の確認をしたいんですが、少し時間もらえますか」と伝えた。声は、できる限り穏やかに。
全員分の支払い記録を一覧にしたA4の紙を静かに差し出す。「ここに書いてある金額を渡しているんですが、領収書と合わせて確認させてもらえますか」と。
沙織さんの顔色が、みるみる変わった。
「え……ちょっと待って、それ私の手元にある記録と違うかも……」
「でも、これ私たちのメモと振込記録から作ったので……」
言葉が続かなくなった沙織さんは、「計算が合わない部分があって、自分でも整理できてなかった」と言い始めた。意図的かどうかは、最後まで認めなかった。
差額は全額返金、そして沙織さんは去った
その後、チームの代表を交えて話し合いが行われた。
沙織さんは「立て替えていた部分と混在してしまった」と説明したが、差額分については全額を保護者に返金することになった。集金の役割も、次の年度から複数人で管理する方式に切り替わった。
数ヶ月後、沙織さんは「引越しのため」という理由でチームを離れた。
怒鳴り合いもなく、泥仕合にもならなかった。ただ、あの静かな記録の突き合わせが、すべてを動かした。
チームを離れた今も、子どもたちは走り続けている
あの騒動から1年以上が経った今、息子のチームは新しい会計の仕組みでうまく回っている。
お金の話を切り出すのは、正直怖かった。でも、黙ったままでいたら4万円どころか、チーム全体の信頼が溶けていたかもしれない。
私の中に残ったのは、怒りよりも、どこか静かな疲労感だった。信じていた人に裏切られたときの、あの独特のざらつき。それも、時間とともに少しずつ薄れていった。
お金の管理を「任せきり」にしてしまうと、善意が通じない相手には無防備になってしまうかもしれません。記録をつけること、定期的に確認し合うことは、信頼を疑うためではなく、お互いを守るためのものだと今は思っています。
さいごに
グループの中に「感謝」と「遠慮」が重なると、どうしても確認の一声が言い出しにくくなりますよね。あなたの周りにも、似たような経験をしたことがある人がいるかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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