入社してすぐ、私の隣にはやたらと「マナー」に厳しい先輩がいた。頼んでもいないのに事あるごとに隣からやってくるその存在感は、まるで我が社の専属マナー講師だった。
「そのやり方、ちょっと待って」が口癖の先輩
入社2週目のこと。私が書類をホチキスで留めようとしたら、すかさず声がかかった。
「ちょっと、それ適当に斜めにしてる?」
「……え?」
「ホチキスは左上に斜め45度で留めるの。まっすぐはダメ。受け取る人が読みやすいようにって、昔からのマナーなのよ」
そう言って先輩は私の手からホチキスをそっと取り、慣れた手つきで斜めに留めてみせた。
——なるほど、そういうものか。
新人だった私は素直に応じた。それからというもの、書類を留めるたびに角度を気にするようになった。
先輩ルールは、ホチキスだけじゃなかった
それは序章に過ぎなかった。
付箋は必ず横向きに貼る。メールの件名には日付を「〇月〇日」形式で入れる。——へぇ、そういうもの? 電話を切るときは受話器を「そっと」置く(ガチャはNG)。お茶を出す順番は役職ではなく「年齢順」。——え、年齢順……? 打ち合わせ資料は前日の17時までに配る。
どれも「昔からそういうもの」「うちの会社の礼儀」という説明がついてきた。
私はメモを取った。本当に、真剣にメモを取った。
でも同期に聞くと「え、そんなルール聞いたことない」と首をかしげる。他の先輩に確認しても「別にどっちでもいいんじゃない?」と返ってくる。
——もしかして、これって先輩の個人ルール……?
うっすら気づきはじめていたけれど、言えなかった。2年目になっても、私は斜め45度でホチキスを留め続けた。
新人研修の日、先輩の口から聞こえてきたのは
春。新入社員が配属されてきた日のこと。
自分のデスクで作業しながら、先輩が新人に話しかけるのをなんとなく聞いていた。
「ねえ、ホチキスって斜めに留めてる? まっすぐはダメよ。受け取る人が読みやすいようにって、昔からのマナーなの」
——あ。
聞いたことのあるセリフが、一字一句違わず流れてきた。
思わず顔を上げると、斜め前の席の同期と目が合った。彼女の表情が「ね?」と言っていた。私も「ね」と目で返した。
怒りとか、悔しさとか、そういう感情が来るかと思ったら——なぜかじわじわ笑いがこみ上げてきた。
これ、毎年やってるやつだ。私じゃなくて、先輩の「恒例行事」だったんだ。
その日の昼休み、同期と「私も言われた」「私も!」と笑い合ったら、なんだかすっきりした。
さいごに
「会社のマナー」と言われると、なかなか疑えないですよね。あとから「その人だけのルールだった」とわかったとき、笑うしかないあの脱力感——なんとも言えないですよね。あなたの職場にも、そんな”伝説のマイルール”はありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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