保育園の送迎で毎朝顔を合わせていた彼女のことを、私はいまでも忘れられない。穏やかで、いつも静かに笑っていた。あの笑顔の裏に、あんなに重いものを抱えていたなんて——。
「うちの夫、浮気してるみたい」と笑って言った
はじめて打ち明けられたのは、梅雨の蒸し暑い朝だった。
園の正門前、傘を並べて雨宿りしながら、彼女はさらっと言った。「実はね、うちの夫、浮気してるみたい」と。
私は言葉を失った。深刻な顔ひとつせず、まるで天気の話をするみたいに話す彼女を見て、胸が痛かった。
「もう半年くらい気づいてたんだけど、子どもが卒園するまでは、とりあえず普通にしようと思って」
そう言って彼女は、門の向こうに消えていく自分の娘の背中を、ずっと目で追っていた。
何もできない。それでも毎朝、隣に立った
それからも毎朝、私たちは顔を合わせた。
何か言わなきゃと思うたびに、言葉が出てこなかった。「大丈夫?」は嘘くさいし、「別れたほうがいいよ」は言えない。「つらいね」では足りない気がして、結局いつも当たり障りのない話をして終わった。
——私、情けないな。
彼女はその間も変わらず穏やかで、娘さんが転んで泣けばすぐに駆け寄り、先生に「今日もよろしくお願いします」と深々と頭を下げた。子どもの前では、何事もなかった顔をしていた。
それがどれほどしんどかったか、私には想像もできない。
卒園の直前、届いた短いLINE
卒園式の少し前、彼女からLINEが来た。
「実はもうすぐ離婚することになりました。引っ越しも決まったから、また連絡するね」
短い文章だった。スタンプも絵文字もなかった。
私はしばらくスマホを持ったまま、動けなかった。それから、なぜか急に涙が出てきた。声を出して泣いたのは、久しぶりだった。
うれしいのか悲しいのか、自分でもよくわからなかった。ただ、「前に進めるんだ」という安堵と、「もっとそばにいてあげればよかった」という後悔が、同時にどっとあふれてきた。
返信は、正直に書いた。「気の利いたことが何も言えなくてごめんね。でも、いつも会えてよかった」と。
すぐに既読がついて、「ありがとう、それだけで十分だったよ」と返ってきた。
——それだけで十分だった。
その言葉を読んで、また泣いた。言葉にできなくても、ただ同じ時間に同じ場所に一緒にいることが、彼女の中では何かになっていたのかもしれない。そう思いたかった。
新しい保育園で、娘さんが元気でやっているかな?と今も時々思い出す
さいごに
浮気されても子どもの前で笑い続けた彼女の強さは、きっと並大抵ではなかったはず。「何もできなかった」と悔やみながらも隣に立ち続けたこと、ちゃんと届いていたんですよね。つらいとき、ただそばにいてくれる人がいる——それだけで救われることって、ありませんか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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